日本を海外に英語で発信するという仕
事をしてきたせいか、ジャーナリストと
して独立した今でも、日本の良いものを
見ると世界に発信したくなる。その代表
的なものが日本酒だ。実は、私は特に日
本酒に興味があったわけではない。しか
し、2015年から数年間出席していた
スイスで行われるダボス会議での経験か
ら、もっと日本酒について知りたいと思
うようになった。
この会議には政治家、産業界などの世
界のリーダーが集まり、夜にはダボスの
町のあちこちでさまざまな国や企業がホ
ストとなりパーティが開かれる。日本も
産業界と政府が協力し、ジャパンナイト
というイベントを毎年開いている。おい
しい酒と日本食がふるまわれるとあっ
て、ダボスでは一番人気のイベントだ。
訪れる人は毎年増え、最近では600人
超が訪れる。
ある年の会場でのこと。日本酒カウン
ターの前には長蛇の列。近くにいた私は、
「日本人?どのお酒がおいしいのか教えて
よ」と声をかけられた。ダボスに来る人々
は、世界の名だたるワインにも精通してい
る。しかし、辛口、甘口以外の日本酒の表
現方法を知らなかった私はうまく説明でき
ない。お酒にうんちくはいらず、ただ楽し
めばよいという人もいるかもしれないが、
味や特徴が全くわからない異国の酒をはた
して飲みたいと思うだろうか。
そんな経験から、英語で日本酒を学ぶ
講座をとったり、酒蔵を訪れたりした。
日本酒をグラスにそそいで匂いを嗅ぐ
と、日本酒にも、ヨーグルト、ナッツ、
青りんご、パイナップルなどさまざまな
香りがあることがわかる。透明、白濁し
ている、黄色がかっているなど色も違う
し、酸味や甘味の強さ、コク、うまみなど、
味の特徴も面白い。日本酒をワインのよ
うに分かりやすく表現することも、外国
の人に理解してもらうためには大切なこ
となのだ。
2016年には、スパークリング日本酒
を醸す日本各地の蔵元で構成されたAwa
酒協会が設立された。国産米を100%使
用することや、醸造中の自然発酵による炭
酸ガスのみを保有していることなど、厳格
な品質基準と第三者機関での検査をクリア
した銘柄だけを「AWA SAKE」と認
定している。シャンパンのように高品質の
ものの価値を広めたいということからだ。
Awa酒なら乾杯にも適していて女性や初
心者でも飲みやすい。
日本酒の国内出荷量は、残念ながら
1973年のピーク時の一七〇万kL超か
ら減少し続け、2022年には四〇万kL
まで減少してしまった。しかし、最近は
海外でも日本酒ファンが増えているため
か輸出量は伸び、1998年に0.7%
だった日本酒全出荷量に占める割合は、
2022年には8.2%になった。今で
は、在外公館に赴任する外交官にも日本
酒の研修が行われている。和食とともに
今後の日本酒の外交力に期待したいとこ
ろである。
次号は、リンクトイン・ジャパン株式会社代表の田中若菜氏にお願いいたします。