「人新世」Anthropocene と言われるように、
人類の営みは地球のOSを変えるほどのイン
パクトを持ちつつある。
ここで言うOSとは、気候システムやエネ
ルギー消費、炭素・窒素・廃棄物の循環も含
めた惑星規模のOperating System という意
味だ。人類文明を「地球進化史」の時間のラ
ンドスケープのなかで評価し、再設計する視
点が必要になる。
だが、それは必ずしもネガティブなインパ
クトばかりではなく、逆に地球のOSを創造
的に更新(アップデート)する可能性も秘め
ている。
たとえば現代都市の超高層化、ドローン空
輸や空飛ぶクルマが開く未来は、単に人類社
会における空間設計とモビリティの革命とい
うにとどまらない。それは私たちの「世界像
の3D化」---- そして海洋生態系に加えて陸上
生態系を形成してきた「生命と地球の共創(共
進化)」のプロセスにさらに「空中生態系」と
いう地球の新たなレイヤーを追加するような、
地球史における新たな段階と捉えるべきでは
ないか。
そこにさらに宇宙エレベーター、宇宙太陽
光発電、月面開発など「宇宙空間を包含した
地球への進化」が接続してくる。
もとより、これは「地球(史)目線」でみ
れば必ずしも新しいことではない。むしろ地
球史そのものが生命によるダイナミックな「地
球のテラフォーミング」の繰り返しだった。
三億年前の巨木の森(それは分解者不在の
当時の生態系で現代のプラごみのような「石
炭層」を残した)とそこで空中に進出した昆
虫類、一億年前の「花」というヘリポートに
集まるドローン(ミツバチなど受粉昆虫)、そ
して5000万年前の超温暖期に創発した広
葉樹の森とその高層空間=樹冠で暮らし始め
た初期哺乳類。
この地球史上の「タワマン革命」で、飛び移
る枝までの距離を計るのに適した視覚(3Dの
眼)や枝を掴む器用な手指、その分うしろ足
だけで体を支える二足歩行の基礎など、人類
につながる身体・感覚系の基礎も培われた。
「人新世」Anthropocene とは文字通り「人
類による新たな地球史の更新の世紀」であり、
こうした「地球の物語」の続きを描くべき段
階だと私は考えている。
そして地球の物語の続きを描くメインアク
ターとしての企業活動の担い手は、こうした
地球史の長い物語を理解してこそ、現代の変
革の「方位」と「射程距離」、その地球史的な
インパクトを正しく測ることができるはずだ。
ここで殊更に「企業」というのは、企業が地
球環境へのインパクトという意味でいまや国
家以上の最大のアクターとなっているからに
ほかならない。
実際、いくつかの企業とともに「共創地球塾」
と銘打った企業研修セミナーを博報堂UoC
(University of Creativity)を舞台に4月から
展開してゆく予定だ。(ちなみに本リレーエッ
セイのバトンは、この塾の基幹企業であるLI
FULL井上高志社長から受け継いだものだ。)
この企業セミナーの思想的基軸として私が
提唱する「共創地球学」は、こうした地球史
を視野に入れた大きな時間軸、「人間界に閉じ
ない共創」への視座の提供する新たな学の構
想だ。
人類は地球のガンとでも言わんばかりの悲
観的な地球環境論は、あるいは近代文明の利
便性をただ「持続可能」にするためだけの対
症療法的なSDGsは、人間の責任を引き受
けているように見えて、実は地球の未来に果
たしうる人類の創造的な役割とその責任を棚
上げした議論ではないか。(その意味で西欧近
代の「人間中心主義」は「人間不信」をその
裏面に隠している。)
むしろ地球を次の段階へとアップデートす
る担い手として、人類の知的創造性と責任を
正面から引き受け、人間社会内の共創を超え
て、他の生物と人類の共創(動植物や微生物
とのパートナーシップ)、地球と人類の共創(共
進化)まで射程に入れたコンセプトとして「共
創地球学」を構想する。
実際、人類文明はまだ「幼年期」であり、
私たちのエネルギー消費や水循環、食システ
ムには膨大なムダがある。そこを更新する先
端技術を集約して社会OSを更新すれば、
2030年代には倍増するとされる都市のメ
タボリズム(物質代謝)を相当サステナブル
なものにアップグレードしうるはずだ。
日本でもたとえばN T T「光電融合」
(2019年に消費電力九四%カットの光トラ
ンジスタを発表)やWOTAによるシャワー
トイレ生活用水98%カットなど、それを実
現する技術基盤は芽生えつつあり、その意味
で人類文明は「99%伸びしろ」と考えている。
未来をデザインするためにこそ、過去(歴史)
を学ぶ必要があるーー。
自分が生きてきたわずか数十年の「常識」
を脱衣して、地球と共進化しうる人類社会の
OSを設計するための第一歩として「共創地
球塾」はお役に立てるはずだ。
次号は、東京大学公共政策大学院教授の鈴木寛氏にお願いいたします。