産業革命以来の200数十年間、人類
は大きな発展の時代を過ごした。日本で
は、明治維新以降の150余年間。しか
しその果ては、環境問題、格差の問題、
パンデミック、戦争・紛争・テロといっ
たマクロな問題が山積する現代である。
つまり、「みんなが自分勝手にやっていれ
ば全体としてうまくいくはず」という考
え方を基本とする資本主義は限界を迎え
た。では、人類は、産業革命以来のパラ
ダイムをどちらにシフトすべきだろう
か。
私はウェルビーイングの研究者であ
る。ウェルビーイングとは、良いあり方、
幸せ、健康、福祉。心も体も社会も良い
状態であることを表す。そんな私からみ
て自明なことは、「人類はみんな幸せであ
るべき」ということである。ところが、
皮肉なことに、経済成長こそが幸せと信
じた人類は、過去最大の苦難に直面して
いる。つまり、人類は、産業革命(明治
維新)以来の幸福観を転換すべき時が来
ていると言えるのではないだろうか。そ
れは、「経済成長から、心の成長へ」であ
る。
産業革命以降の世界では人類は「心の
成長」をおざなりにしてきた。一方、もっ
と前の中世や近代には偉人がいた。なぜ
なら、器の大きい立派な人になることを
目指した時代だったからだ。なぜ産業革
命以降、「心の成長」を目指すパラダイム
が廃れたかというと、「経済成長」という
欲望刺激システムがあまりにも魅力的に
見えたからである。立派な人にならなく
ても、お金持ちになれば、なんでもでき
る。「じゃあ、そっちの方がいいんじゃな
い?」という価値観が蔓延した社会であ
る。その結果、人格的に尊敬される国や
企業のトップが激減した。
これからは「心の成長」を第一に考え
る時代に転換すべきである。私がそう考
える根拠は、以下のようなウェルビーイ
ング(幸せ)の研究結果にある。金、モノ、
地位による幸せ(つまり産業革命後の人
類が追求してきたこと)は長続きしない。
学び成長する人は幸せである。利他的で
貢献心の高い人は幸せである。視野の広
い人は幸せである。誠実な人は幸せであ
る。感謝する人は幸せである。つまり、
これらの研究結果から導き出される答え
は「経済成長よりも心の成長の方が持続
的な幸せに寄与する」である。
しかも、幸せな人は不幸せな人よりも
創造性が3倍高く、生産性が3割高く、
7年から10年長寿であることも知られ
ている。つまり、「心の成長をおざなりに
して経済成長を目指す」よりも「経済成
長ではなく心の成長を目指す」方が、実
は会社や国家は成長するのである。産業
の革新を第一に目指す社会から、世界中
の生きとし生けるもののウェルビーイン
グを第一に考える世界へ。心の美しい世
界へ。ITやAIなどのテクノロジーを
ウェルビーイングのために生かす時代
へ。みんながみんなの幸せを願う世界へ。
競争から協創へ。望ましい未来をみんな
でともに創る時代へ。そんな時代への革
新の時である。明治維新に次ぐ、令和維
新の時である。
次号は、株式会社LIFULL 代表取締役社長の井上高志氏にお願いいたします。