名古屋芸術大学在学中に、似顔絵とい
う表現方法に出会いました。仕上がった
絵をモデルの方に渡したとき、いつも笑
顔で受け取ってもらえる。こんな友達同
士のようなコミュニケーションが生まれ
る似顔絵というアートに「人を癒す力」
を感じ、医療関係者のご協力で「似顔絵
セラピー」という新たな挑戦を始めたの
が、大学卒業後二年後のことです。
「似顔絵セラピー」は、患者さんの人生
を聞かせていただき、似顔絵だけでなく
その方の仕事や思い出などを一枚の紙に
表現していきます。
思い出深い話があります。似顔絵を描
くために病室に入ったところ60代の男
性患者さんに開口一番「似顔絵とはなん
だ!出ていけ!」と怒鳴られたのです。
びっくりしましたが、その患者さんにも
色々な思いがおありなのだろうと思い、
まずはお話だけでも聞かせてください、
とお願いしてみました。すると、少しず
つお話しする中でその方は広島県庁でま
ちづくりに関わっている方という事がわ
かりました。自分が広島出身ということ
もあり、絵の中に広島の街と、その方の
元気だった頃の姿を描きました。その絵
を手渡した瞬間、いつも不機嫌なその方
がニコッと優しい顔で笑ってくれたので
す。その方に関わっていた医療スタッフ
も、「魔法のようです」と驚いていました。
アートには、患者さんの辛い気持ちやし
んどい心を癒すだけでなく、ご家族や医
療スタッフの気持ちに寄り添う力がある
と感じた瞬間でした。
近年は、病院のリノベーションや新築
に一から関わり、ホスピタルアートと呼
ばれる壁画や空間づくりの制作に携わっ
ています。白一色だった廊下の天井を、
まぶしい木漏れ日の空間に変え、スト
レッチャーで運ばれる患者の方にも目で
温かみを感じて頂けたらと制作した壁画
もあります。
18年、医療とアートの可能性を信じ
て活動を続けてきましたが、アーティス
トが医療に参入するための壁はまだ高く
厚いです。日本の芸術大学にはホスピタ
ルアートをやりたいと希望する学生がた
くさんいます。また医療の世界にも地域
とつながる医療者の方も増えてきていま
す。アートをやりたい人もいるし、求め
られている場所もたくさんあるのになぜ
実現できないのか。私は課題を感じ、昨
年「医療とアートの学校」という団体を
立ち上げました。アート・デザインと医
療・ケア・地域を結ぶかけはしになれた
ら、という想いからです。
異例のことですが、今年5月12日か
ら、愛知県で行われる「日本プライマリ・
ケア連合学会学術大会」にて昨年に引き
続き「医療とアートの学校」の展示をさ
せていただくことになりました。医療と
アートの新たなつながりを感じていただ
ける空間になると思います。
似顔絵の仕事や取材などでヨーロッパ
などを訪れると、アートと社会が共存し
ている姿がありました。日本でも、真っ
白だった病院の壁が色鮮やかにアートに
あふれる日がきっと来ると信じていま
す。
次号は、、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授の前野隆司氏にお願いいたします。