1662年の創業以来、信州諏訪を拠
点に酒造業を営んでおります。
子供の頃は何もないように見えたこの
地域が嫌で、早く東京や世界へ出て広い
世界を見たいと思う日々を送っていまし
た。願いが叶い高校時代は米国への留学、
大学進学に伴い首都圏で数年間を過ごす
ことに。そこで初めて見えてきたのが、
この信州諏訪という土地の魅力。中にい
ては見えなかった地域の個性や特徴が、
外から眺めて見ることで初めて見えてき
たのです。
四季を通じて変化する山並みの色合
い、透明感のある空気に、山々から湧き
流れる清涼で豊富な水。その水が流れ込
む諏訪湖とそれを取り囲むように広がる
人の暮らし。街から15分も車を走らせ
れば、そこには豊かな自然、ダイナミッ
クな景色が広がっています。諏訪大社と
いう由緒ある社があり、御神酒を捧げる
ことを生業としてきた私たち酒蔵にとっ
て、この諏訪という土地こそ酒蔵の個性
を具現化する最大の要素です。
かつては日本各地に星の数ほど存在し
た酒蔵の数も、今では大きく数を減らし
ました。新規参入も目立ってきましたが、
それ以上に廃業される蔵は後を絶ちませ
ん。ビールやワインといった他酒類との
競争だけではなく、Netflixやオンライン
ゲームといった夜の可処分時間を奪い合
うサービスこそ現代の競合と言えるで
しょう。娯楽の選択肢が少なかった時代
と比べると、今は豊富な選択肢があり、
切磋琢磨して生み出されるコンテンツは
いずれも極上。中途半端な思いで酒造り
をしていても到底生き残ることはできま
せん。
この数年で酒を取り巻く状況は大きく
変化しました。本来は酒がそこまで好き
ではなかった方々も、コロナ前は半ば習
慣的な付き合いで口にしていたことも多
かったのではないでしょうか。コロナ禍
によってこの「付き合いでの飲み会」は
減りました。また「健康」がこれまで以
上に注目を浴びるのは、長期的な世界の
トレンドです。かつて社会の一風景だっ
た煙草を扱う状況が一変したように、酒
類に対しても広告規制や嗜好する場所に
対しての強い規制も欧米を中心に広がり
つつあります。
こうした状況下において私たちが生き
残っていくためには、売れ筋の商品の味
わいやパッケージをコピーするのではな
く、自分達の原点にある思想や土地を見
つめ直し、それを酒という液体に宿らせ
ること、お客様の生活を豊かにすること
だと信じています。
コンピューターやAIが進化し、業務
上の雑務を人が行う必要がなくなる時代
が到来した際に、これほどまでに人間の
感性で勝負できる仕事があるでしょう
か。世界で勝負出来るコンテンツがある
でしょうか。酒造りの仕事は、微生物や
原料となる米・水と向き合い、それを生
み出す自然や歴史と向き合うロマン溢れ
る志事です。
斜陽産業と思われがちな業界ですが、
全てはものの見方次第。私の頭の中は常
に夢で溢れています。
次号は、株式会社浅井農園代表取締役の浅井雄一郎氏にお願いいたします。