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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2021. 8.  RIETI  LETTER
日本の医学界にもっと栄養学的視点を!顔画像と経歴



  新百合ヶ丘総合病院
予防医学センター・消化器内科部門部長  袴田 拓

 飽食の時代に生きる私たち現代人。「メ タボ」というキーワードもすっかり定着し、 過飲食による肥満、糖尿病・脂肪肝といっ た生活習慣病で健康を損なう人は増加の 一途をたどっています。それでは、かつて ビタミンC欠乏(壊血病)が蔓延した大航 海時代や、精白米への偏食からビタミンB 1欠乏で脚気が多発した江戸時代のよう な病的栄養不足は消滅したのか?という と、決してそうではありません。

 畑はやせ、野菜のビタミン含有量は戦後 に比べて激減。その一方で、加工食品の増 加で鉄・亜鉛などのミネラルがすっかり抜 けた食材も目立ちます。また、丼ものや 麺類など糖質中心の手軽なメニューが常 食となり、身体を構成する肝心のタンパク 質がまったく摂れていない人も多いのが実 情です。このような質的栄養不足は身体 のエネルギー代謝を乱し、さまざまな体調 不良の原因となります。顕著な質的栄養 異常が見られるにもかかわらず、十分に 対処されていない代表的例が産後の女性 です。産後の母体はタンパク質や鉄分を胎 児の成長に捧げてしまう結果、ホルモンだ けでなく質的栄養バランスも崩れます。そ して自分の健康維持に必要なコラーゲン やセロトニン・ドーパミンといった体内物 質が不足し、骨・歯は劣化、皮膚・結合 組織も弱まり妊娠線や骨盤の緩み・歪み が生じ、さらには心も不安定となり「産 後うつ」にもつながります。しかし、こう いった仕組みを産婦人科医も内科医も精 神科医も学んできていないため、ほとんど 適切に対応できていない実態なのです。

RIETI LETTER 表紙画像  日本の医学界は戦後、製薬業界ととも に発展(その功績も非常に大きなもので はありますが)してきた半面、栄養医学 的視点をほとんど涵養せずにきたため、新 型コロナウイルスのような未知の感染症を 前に「治療薬なし」「予防接種なし」では 人の行動制限に頼る以外なすすべがない 弱さを露呈しました。海外では、たとえ ばビタミンDの補充でコロナ予防や治療に も有効とする論文が数多く出ており、ト ランプ元大統領も発症直後から服用して いました。しかしそういった報道に対し日 本政府や分科会、厚生労働省のいずれも 反応すらしていません。栄養医学的視点 が早くから存在していれば、もう少し安 心してオリンピックを迎えられたのかもし れません。

 「You are what you eat. 〜人間は食べた もので出来ている〜」という西洋の諺に異 を唱える人は少ないでしょう。そして今、 医学者よりもむしろ生化学者や物理化学 者が日本へ持ち込んだ「分子栄養学」が 少しずつ注目を集めています。不足してい る栄養素を症状や血液検査から分析し、 個人差も踏まえながら必要に応じてサプ リメントも利用する新しい考え方の栄養 学です。栄養医学は薬物医療のより礎を なし、その不足を補うカテゴリーです。お 互い対立するものではなく、相補い合う関 係です。日本医学界もそろそろ大きなパ ラダイムシフトを図るべき時期に来ている と感じます。


次号は、セラシオジャパン最高協業責任者の小澤良介氏にお願いいたします。

リレーエッセイ 「日本の医学界にもっと栄養学的視点を!」(リーチレター 2021年8月号)
新百合ヶ丘総合病院 予防医学センター・消化器内科部門部長 袴田 拓

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