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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2016. 4.  RIETI  LETTER
「モーツァルトの住家を訪れて」顔画像と経歴



  第一生命保険株式会社 代表取締役会長
斎藤 勝利

 今年は、世界中で愛されている作曲家モーツァルトがザルツブルグでこの世に生を受けてから260年目に当たる。今もザルツブルグにはモーツァルトゆかりの家がふたつ残っている。ひとつは「生家」、そしてもうひとつが「住家」である。この「住家」は第二次世界大戦で爆撃を受けて半壊し、長い間荒れたままとなっていた。1996年に弊社が国際モーツァルテウム財団を通じて、この「住家」の復元事業を支援し、「住家」は当時の面影を取り戻した。

 数年前にザルツブルグを訪れ、久しぶりにこの「住家」を見る機会があった。多くの観光客が当時のモーツァルトの暮らしぶりに想いを馳せながら見学しており、想像以上の賑わいだった。そのときにザルツブルグで乗車したタクシーの運転手は、私が日本人だとわかると次のように話しかけてきた。「我々の誇りであるモーツァルトの住家を修復してくれたのは日本の“ダイイチ”という保険会社なんだ。知っていたかい」と。弊社の支援が20年近く経った今も現地で語られているとは夢にも思わなかった。

 芸術・文化支援を含めた、企業の社会貢献は、「良き企業市民」として行うべきものであり、賞賛や対価を求めるものではない。弊社の創始者である矢野恒太もそうだった。矢野は医師だったこともあり、当時の国民病であった結核の撲滅に取り組み、昭和14年に、初期の結核患者向けの長期療養所を設立した。「保生館」と呼ばれたこの施設は当時東洋一のサナトリウム(療養所)として知られたが、時を同じくして、皇后陛下の御令旨により財団法人結核予防会が設立されると、設立直後のこの施設をすべて結核予防会に寄付している。

RIETI LETTER 表紙画像

 余談だが、アニメ映画「となりのトトロ」で、サツキとメイの母は、自宅から離れた「七国山病院」で療養していたが、この病院のモデルが多摩丘陵の八国山に建てられた「保生館」と言われている。矢野の思想はその後も社内で脈々と引き継がれ、“陰徳”の精神で様々な取組みを支援してきた。その結果として、公益社団法人 企業メセナ協議会が主催する「メセナ大賞」を二度受賞させていただいた。2000年に現代美術の若手画家の登竜門となっている「VOCA展」で受賞し、二度目は、2009年に、晴海の第一生命ホールを拠点とした「NPOトリトン・アーツ・ネットワークの音楽活動支援」を認めていただいた。

 当然ながらこれらは受賞を目的としたものではないが、やはり世間に認めていただけることは大いなる励ましとなる。こうした企業の取組みは、「続ける」ことがもっとも重要であり、そのためには、まず企業が持続的に成長することに加え、その活動や支援が世間や社内からも認知・理解されるということも必要である。

 また、いつか、どこかで、「いいね」という言葉に会えることを少しだけ期待しながら、人々が健康で豊かに暮らすための活動を地道に支援していければと考えている。



次号は、アメリカンファミリー生命保険会社副会長の外池徹氏にお願いします。
リレーエッセイ 「モーツァルトの住家を訪れて」  (リーチレター 2016年4月号)第一生命保険株式会社 代表取締役会長 斎藤 勝利

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