(財)経済産業調査会ロゴ <<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内
リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2016. 3.  RIETI  LETTER
「豊かに生きる−美術との出会い−」顔画像と経歴



  すどう美術館 館長
須藤 一郎

 普通であればサラリーマンで終わり、退職後は好きな本を読んだり、海外旅行を楽しんだりしていたのではないか、今でもそんな風に考えることがある。では、美術に関係のない世界にいた私が、どうしてこの道に入ってしまったのか。話は1982年46歳の時にたまたま、伊豆の美術館に入り、名も知らない菅創吉(すがそうきち)という作家の展覧会を見たことにはじまる。

 きれいな絵とは全く異質で、これが絵か、と見ていた僅かな時間のうちに180度意識が変わり、すごい感動を覚えた。渋い色ではあるが、暗くはなく、ユーモアもあり、作家の美術への姿勢が絵を通じて私の心を捉えてしまい、どうしてもほしくなって、館長にお願いし作品を一点譲ってもらったのである。

 菅創吉はその数日前、77歳で生涯を閉じており、お会いすることはなかった。しかし、菅作品の魅力に取りつかれてしまった私は、作品を見るために出身の姫路の美術館にも出かけ、画廊なるものにも行くようになり、菅作品を中心に他の作家のものも含め、絵をコレクションするようになってしまった。

 集めた絵は自宅の壁に掛けて楽しんでいたのであるが、絵の役割は大勢の人に見てもらうことではないか、それとともに、絵を持つことの喜び、心の豊かさを他の人にも伝えたい、と思うようになった。

RIETI LETTER 表紙画像

 それで決心をし、54歳の時に町田市の自宅を開放し、収集した作品の展示をはじめた。名前を「すどう美術館」としたが、通称は「世界一小さい美術館」。平日私は会社なので、妻が館長代理を務めた。

 62歳で会社生活が終わる時、多くの方の支援を得て、なんと清水の舞台から飛び降り、銀座に進出してしまった。少し広いスペースを借りていたので運営はたいへんだったが10年活動。2007年、縁あって第3ステージとなる現在の小田原の地に移りもう9年になる。

 自分の体験から一貫して、アートは「心の糧」であり、人間が生きていくうえでなくてはならないものであって、どこの家でも現代の生活空間に合った絵を掛け、豊かさを享受する社会になってほしいというのが私の願いである。

 思えばそのために館内の展示のほか、いろいろなことをやってきた。コレクションを抱え全国どこへでも出張する「出前美術館」の実施、絵の展示の中でのコンサートや落語などの開催、海外「アートフェアー」の参加、若い作家への支援や留学制度設定などなどである。小田原ではさらに、国内外作家を招待しての「アーティスト・イン・レジデンス」と「東日本げんきアートプロジェクト」を立ち上げ、大震災被災地へ行っての活動が加わった。

 文化というものの水準を高めていくには、上からのお仕着せではなく、下からの力で盛り上げ根付かせていくべきものだと私は思っている。



次号は、第一生命保険(株)代表取締役会長の斎藤勝利氏にお願いします。
リレーエッセイ 「豊かに生きる−美術との出会い−」  (リーチレター 2016年3月号)すどう美術館 館長 須藤 一郎

 info@chosakai.or.jp
 http://www.chosakai.or.jp/

無断転載を禁じます 一般財団法人経済産業調査会
Copyright 1998-2016 Reserch Institute of Economy, Trade and Industry.
<<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内