地方創生の掛け声のもと、自然エネルギーがあらためて注目されている。技術的にもコスト的にも本格的な普及を窺える状況になってきたことに加え、経済的効果や雇用創出など地域から見た自然エネルギーの恩恵の大きさが見直されてきたことが大きい。例えば人口1万人の町が自然エネルギー自立をすると、光熱費だけでほぼ税収に匹敵する年間10億円程度の域外流出を食い止め、地域GDPを5〜20%押し上げる効果が期待できるのだ。
中でも、バイオマスエネルギーへの関心が高い。ほとんどの中山間地域が森林や農業廃棄物など未利用のバイオマス資源に恵まれていること、固定価格買取制度での優遇、そして来年から始まる電力小売り自由化では貴重な「運転できる自然エネルギー発電」であることから、日本中でバイオマス発電の計画が一気に立ち上がっている。
ところでバイオマスは、およそ15年前に「新エネルギー」に認定され、国が音頭を取った「バイオマス・ニッポン総合戦略」以来、国も手厚い支援策を提供するなど普及の努力が行われてきた。その結果、木質ボイラーやバイオマス発電、木質ペレット工場など全国各地で現実に導入されてきており、その頃とは隔世の感がある。
にもかかわらず、全体として見ると、今ひとつ普及に成功したとは言いがたい。今回の「バイオマス発電ラッシュ」は、いよいよ日本でも本格普及期を期待させる一方で、そうとも言い切れない心配もある。
その一因が「第二次バイオマスガス化ブーム」だ。小型でも発電効率を高めようとガス化発電を検討している地域が少なくなく、欧州のバイオマスガス化技術の輸入代理店競争も起きつつある。もちろん、かつてバイオマス・ニッポンのもとでさまざまな「実証事業」が取り組まれた頃に比べて、ガス化技術の熟度は格段に上がっていることは間違いない。
しかし、形をかえた「バランスの悪さ」が気になる。最近、筆者が意見交換した北欧のバイオマスの専門家は、この状況を「日本はまだハイハイの段階なのに、歩き始める前に走り、それどころかジャンプしようとしている」と指摘した。
ガス化・発電・ボイラーというのは、バイオマス利用の中でもっとも華やかな中核技術だが、逆に言えば「単純」で選択肢も多い。日本ではそこに飛びつく一方で、はるかに大切で慎重な検討を要する全体最適計画や設計のノウハウ、あるいは季節・時間・需要に合わせて最適運転する知見が、ぽっかり抜け落ちている。地域熱供給の配管や温水熱交換器、家庭内の温水パネルといった、地味だが重要な技術・製品群もほとんど見当たらない。
自然エネルギーによる地域自立のためには、「走る前に歩くこと」、すなわちバイオマスや自然エネルギー利用の全体最適計画や設計ができる人材や地域企業を地域側に育てていくことから始めたい。