下川町は、旭川から北におおよそ100キロの位置にある森林の町である(面積は東京23区とほぼ同じ)。かつては15,000人以上の人口があったが、今は約3,500人、高齢化率も38%。スキージャンプのメッカでレジェンド葛西紀明選手の出身地でもある。
下川町は、今、地域創生の先進的な町として注目を集めている。1953(昭和28)年、町が国有林を取得後、半世紀にわたり一定の面積に植林を続け、粘り強く長い年月をかけて資源を造成してきたのが基盤となっている。
地域創生のコンセプトは、「森林を活用したエネルギーの自給」と「緩やかな集住化」である。
町の総生産額は215億円。農業は約20億円、林業・林産業は約33億円。一方、燃料費として町外に流出している額は約12億円(電力約5億円、化石燃料約7億円)である。
エネルギー自給の始まりは2004(平成16)年。木くずを燃料としたボイラーを公共温泉に導入し、現在、公共施設の約6割が木質バイオマスボイラーに転換されている。燃料の高騰などもあり、年間約1,700万円のコストが削減されている。削減されたコスト分は、基金に積み立て、半額は中学生までの医療費の無料化、保育料の減額など子育て支援に充て、半額は設備更新のための費用として積み立てている。
若い人たちの働く場、子育て負担の軽減、母親を支えるコミュニティ、そして母親の働く機会。全国の自治体が頭を悩ませる課題に、下川町は果敢にチャレンジしている。
今後は、豊富な森林資源の付加価値を図り、バイオマスエネルギーを中心に2018(平成30)年にエネルギーの完
全自給化を目指している。
緩やかな集住化は、町の中心部から約10キロ離れた一の橋地区(人口約140人、高齢化率は50%を超えている)に26世帯の「一の橋バイオビレッジ」を建設したのが始まりである。現在では、住宅のほか、町内外の人が泊まれる施設や住民の安全拠点(郵便局と警察官立寄所)、コミュニティ食堂や障害者施設、さらに医療用植物の研究施設やシイタケ生産施設がある。勿論、エネルギーはバイオマスである。今後、得られた熱エネルギーを利用した6次産業化を目指している。この「一の橋バイオビレッジ」に30年ぶりに子供が生まれた。人口減少にも歯止めがかかってきた。
1960(昭和35)年以後初めて、転入者が転出者を上回った。
森林、風、太陽、水。様々な自然資源がある。こうしたものを「資源」として見つめ直し、その潜在力を引き出すことから地域創生が始まる。
下川町は、切り開いてきた道に追い風の道が開け、大きな一歩を、「今」、踏み出している。