Aビアスの悪魔の辞典を紹介させていただきます。およそ100年以上前に出版された本なのですが、今でも十分通用するような考え方も多くオススメです。本といっても辞典なので、肩肘はらず気楽に読めるのもよいところです。
いくつかの言葉をご紹介しましょう。〈恋愛〉患者を結婚させるか、あるいはこの病気を招いた環境から引き移すことによって、治すことができる一時的精神異常〈悪人〉人類の進歩にもっとも重要な要素〈無宗教〉世界のもろもろの偉大な信仰の中でも、もっとも重要な信仰
こんな感じです。
かなりシュールな物の見方ですが、どこかで深く納得してしまうような解説も多く、考えさせられます。
私が特に考えさせられた事案を二つほど。
最近のテレビでは、毒舌を武器にする芸能人がやたらと人気で、大変不思議に思っておりました。私のような京都人としては、いかに言い難い事をオブラートに包んで上手く相手に伝えるかが腕のみせどころ。言いたい事を遠慮なく言うだけでは相手に不快感を与えてしまい、人間関係台無しです。“ぶぶ漬けでもどうどすか?(早く帰って下さい)”に代表されるように、婉曲表現の中に円滑な人間関係を作るための大人の知恵があるのではないのでしょうか。そこで〈毒舌〉をこの辞典で引いてみました。
〈毒舌〉低能な人間とか、機知の欠陥に苦しむ輩のすべてが理解する風刺
なるほど、わかり易さが受けていたのですね。最近、夜の街で自分のトークが若い女の子達に受けないのは、このためかと悲しくも納得してしまいました。負け犬の遠吠えで、さて次の事案へと移ります。
尖閣諸島、竹島、クリミア半島と、国境をめぐるニュースが連日マスコミで取沙汰されております。〈国境〉を辞典で引いてみました。
〈国境〉政治地理学上で二つの国家を隔てる想像上の線。一国の想像上の権利ともう一国のこれまた想像上の権利を分離している。
地表や海面上に線が引いてあるわけもなく、確かに想像上なのかもしれません。いやいや歴史的観点からみれば正しい判断があるのかもと考え、〈歴史〉を引いてみると、〈歴史〉たいてい、悪党である支配者とか、たいてい馬鹿者である兵隊によって起こされる主として取るに足らぬ出来事に関する、たいていは嘘の記述のこと
…取りつく島がありません。
ここは〈外交手腕〉とは何ぞや、ということに頼るしかなさそうです。
〈外交手腕〉自国のために虚偽を申し立てる愛国的術策
つらつらと書いてまいりましたが、何となく悪魔の辞典についてご理解いただけましたでしょうか。
自分自身では固定観念に囚われず正しい判断をしているつもりでも、マスコミなどで一方の正しさだけを吹き込まれたら、ついそちら側の考え方に引き摺られてしまっている事はよくあります。
物事を冷静に、一歩引いた場所から、客観的、多角的に眺めてみる姿勢の重要性をこの本は改めて考えさせてくれます。
芥川龍之介も好んで読んだというこの悪魔の辞典、一度お時間のある時にでも如何でしょうか。