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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2014. 4.  RIETI  LETTER
伝承と進化〜料理の新しい技術教育への挑戦〜顔画像と経歴



  学校法人辻料理学館 辻調理師専門学校  理事長・校長
辻 芳樹

 昨年は、辻調グループ創設者である父、辻静雄の生誕80年、没後20年の節目の年でした。東京生まれの父が大阪・読売新聞に就職し、新聞記者から転身して、大阪に辻調理師学校を開校したのが1960年。経済成長のただ中、1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博の開催をきっかけに、食分野でも人々の目が海外に注がれるようになっていきます。

 ところが、フランス料理の研究を始めた辻静雄がいきなり直面したのは、現地の料理と日本のフランス風料理との著しい落差でした。当時の日本には、学ぶべき文献も人も見つかりませんでした。しかし、苦労して独学するうちにアメリカの研究者、サミュエル・チェインバレン氏やM.F.K.フィッシャー女史と出会ったことは、思えば幸運な偶然でした。外国人だからこそ客観的な目でフランス料理を捉えることができると励まされ、目をひらかれたのです。

 彼らのアドバイスを得てフランスに渡った辻静雄は、以後、文献研究と現地のフィールドワークを両輪とするフランス料理研究に邁進し、最高水準の技術と情報を学生たちの教育に還元すると同時に、業界に向けて発信しました。プロの料理人にも本場のフランス料理を知ってほしいと願い、ポール・ボキューズをはじめ新進気鋭のフランス人シェフを招聘して行った公開授業には、日本各地から料理人が集まり、大変な熱気に包まれたといいます。

RIETI LETTER 表紙画像  料理のプロをめざす人のための理想的な技術教育とは何か。辻静雄が出したひとつの答えが、まずは最高のものを見せること。フランス料理であれば、本物の料理を教えることでした。そのために、教員たちをまず現地のレストランへ研修に送り出し、確固たる技術と知識を修得させたのです。一方、本場で学ぶことの意義や重要性を痛感していた辻静雄には、フランス人の中で日本人が修業することの厳しさもよく分っていました。そこで、若いうちに現地の食材に触れ、文化的背景も含めて料理を学ぶ最高の環境を整えたいと考え、1980年にリヨン近郊に開校したのがフランス校です。

 料理、製菓、製パン、サーヴィスなどを学べる、食の総合教育機関となった辻調グループは今年、創設54周年を迎え、私が校長となって21年目になります。大阪、東京、フランスのグループ各校の卒業生は累計で13万2500人に達しました。

 飲食業を取り巻く環境が変化し、多様化、国際化が進む今、次代を担う人材を育成するための教育改革が必要だと私は考えています。フランス料理を筆頭に、料理そのものの変化のスピードも増しています。短いスパンで変化を追うのではなく、辻静雄が示したように、歴史的変遷の中に位置づけ、現代料理の本質を見極めた上で、今教えるべき料理の基礎は何なのか、答えを出していくつもりです。技術教育の礎を築いた創設者の理想を引継ぎながらも、それを現代に適応させ、進化させていくことが、あとに続く者の務めと考えています。



次号は、(株)イシダ代表取締役社長の石田隆英氏にお願いします。
リレーエッセイ 「伝承と進化〜料理の新しい技術教育への挑戦〜」  (リーチレター 2014年4月号)  
学校法人辻料理学館 辻調理師専門学校  理事長・校長  辻 芳樹

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