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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2014. 3.  RIETI  LETTER
A-B-Cと温故知新顔画像と経歴



  富士電機産業株式会社  代表取締役副社長
衣斐 茂樹

 皆さんは、「A-B-C」と聞けば何を思い浮かべますか?「アルファベットの最初の三文字」という方が多数でしょうが……ハワイやグアムに行かれた方なら「ABC Store」を思い起こされるかもしれません。亡くなったマイケル・ジャクソンのファンならば、ジャクソン5時代のヒット曲をイメージされるでしょう。

 私の趣味である自動車ファンの間では、「A-B-C」と言えば、自動車の3ペダル(アクセル・ブレーキ・クラッチ)のことを想像する人も多いでしょう。3つのペダルの順番が右から「A-B-C」となっているところから、そう呼ばれるのですが、おそらく世界中のどんな車でもこの順番は同じです(もっとも、最近はクラッチのないAT車がほとんどですが)。このルールはどうやら、特に誰かが決めたわけではなく、1930年代後半頃から自然と世界標準となったようです。ということは、それ以前のクルマには、「A-B-C」の順番が違うものもある、ということです。実は、私の家族代々の趣味でもあるクラシックカーで、ラリーに参戦するときのクルマは、ベダルの位置が右から、ブレーキ・アクセル・クラッチ、つまり「B-A-C」の順に付いているのです。慣れるまでは、発進するだけでも一苦労。運転中は常に右足に意識を集中して、ブレーキ・アクセルを操作しなければなりません。が、その緊張感がたまらない魅力でもあり、ゴールするやいなや「よし次のレースも!」と思うのですから、我ながら呆れます。

RIETI LETTER 表紙画像  それにしても、今やブレーキを踏まなくていいクルマさえあるのに、なぜクラシックカーに惹かれるのだろう?と考えることがあります。無論、好き嫌いに大した理由などありません。ただ、自分自身を振り返ってみると、電気機器・電子部品を販売する会社に身を置き、ロボット・TV・パソコン・スマホなど、日進月歩で進化する業界の中で、日々新しい技術を追い求めている我が身に思い当たります。

 常に新しさを追求する世界にいるからこそ、余計に古きものの良さが分かる。ちょうど、海外滞在が長い日本人ほど、日本の良さが見えてくるようなものと同じかもしれません。

 私は20代30代の頃は、海外生活が長く、非常に多くの色々な国の人と年齢差関係なく、お会いお話しさせて頂く機会に恵まれました。その時によく思ったことは、尊敬すべき諸先輩方と話すと、いかに先人たちの知恵の多くが、我々やその下の世代に引き継がれていないかという事実に気づかされ、愕然とします。商いの知恵、生き方のコツ、マナーや作法など「もっと早く知っておきたかった」ということが山のようにあります。

 グローバル化が進むこれからの時代こそ、各地域固有の文化や伝統が新たに価値を発揮するでしょう。今こそ我々の世代が、先人の知恵を受け継ぎ、若い人たちに伝えていかなければなりません。

 過去の偉大なチカラを、未来への推進力につなげていく。私は、そんなギアをつなぐクラッチの役割を担いたいと考えています。



次号は、辻調理師専門学校校長の辻芳樹氏にお願いします。
リレーエッセイ 「A-B-Cと温故知新」  (リーチレター 2014年3月号)  富士電機産業株式会社  代表取締役副社長  衣斐 茂樹

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