55歳で急逝した父のあとを承け、28歳で幼稚園から大学院までを抱える学園の理事長になり、20年近くが経っ
た。普通に20、30代を過ごせたわけではなかったが、子どもたちが生きていくための力を身につけ、よき人生を歩んでほしい、と願ってきた。
設置校のひとつである大阪国際大和田中・高校が大阪府守口市にある。ここの校庭は、「猫の額」ほどの広さで、ケヤキが八本植わっていた。前身の女子高校だった時代から生徒を見守ってきた木々である。「校庭を広げたいから切ってしまったら」という声があがった。「邪魔だから」という生徒や先生の提案に私は疑問符を投げかけた。そして、生徒や先生方はその投げかけに見事に応え、その命を継承し、かつ、校庭を広げる案を作ってくれた。
生徒たちは、きっと何かを学んでくれたはずである。学びは、教科書の中だけではない。効率性を求め、必要なものは、親や学校がそろえる環境では学べないことが多くある。豊かな日本は、学ぶにはあまりにも何もかもがそろい過ぎているように思う。
この中学を卒業し、やはり守口市にある大阪国際滝井高校に進んだ卒業生に、全日本女子バレーのメンバーになった宮下遥選手がいる。滝井高校のバレーボール部は、全国大会では常連になっているが、決して、十分な体制がとられているわけではない。限られた場所と時間で、いかに成果をあげるか。指導者が唱える「考えるバレー」を実践し、結果を出していることは学園の誇りだ。
2010年夏に甲子園をめざす野球の大阪大会に初出場した大和田高校の選手らは、校舎と校舎の狭い空間で、バドミントンのシャトルをバットで打つなど、苦労して練習している。それでも生徒たちの心の成長は著しい、何事につけても社会や周りの環境のせいにしている私たちが恥ずかしくなるくらいだ。彼らが昨秋公式戦で初勝利をあげた日の感動は忘れることが出来ない。
いま新しい中・高校を創ることを考えている。コンセプトは「シーマンシップに学ぶ」。海という大自然を相手に数人の仲間たちと食料、水だけで、知恵と勇気を駆使して航海してゆく。限られた資源を分かち合い、自分の役割を果たす。チームワークは欠かせない。命がかかっているから待ったなしだ。そこでは、自分が必要とされる力を身に付けなければならないことに気づくだろう。資源が有限であり、自然と共生する必要性を知るだろう。そして、何よりも命の大切さを知るに違いない。
人は一人では生きていけない。一人では社会を創造できない。コンビニでなんでもそろう時代だが、私たちの未来は、コンビニでは買えない。そのことを体得した若者が、アジアをリードする日本を担ってほしい。そういう人材を私たち大人は育んでいかなければならない。