「音楽を通じた社会貢献」と聞くと、どんなものを思いつくだろうか?多くの方が「チャリティライブ」「売上の寄付」といったイメージを持つのではないかと思うが、私が長年持ち続けているのは「音楽あるいは芸術は社会を変えられるか?」というテーマだ。社会とより深くかかわり合いながら、芸術を通じてよりよい社会を築くことができないだろうか?
ひとつの答えが「戦場のアリア」という映画にある。1914年のクリスマスの夜、戦いを繰り返していたフランス軍とドイツ軍が、クリスマス・キャロルの歌声をきっかけに、戦闘の最前線で歩み寄り、挨拶をし、シャンパンで乾杯したという実話だ。この物語からわかるように、音楽は娯楽や「生活のおまけ」ではない。音楽は人の心を、社会を動かし、戦争だって止めることができるのである。
それでも、2011年の東日本大震災のあと、音楽家たちは途方に暮れていた。
音楽を奏でる気持ちにも、作る気持ちにもならなかった。音楽に限らず、ほとんどの公演は中止になり、多くの音楽家や表現者たちが自分の無力さを感じていた。そんな中、池袋芸術劇場の野田秀樹氏「劇場の灯を消してはいけない」 というメッセージとともに、3月15日に池袋芸術劇場での公演を再開した。被災地の人々が衣食住に事欠くような状況の中で不謹慎だとか、電力供給や原発事故の状況も見えないのに危険だとか様々な意見があった。しかし野田秀樹氏のこの言葉と決断が、多くの人たちの心にまさに「灯」をつけ、勇気を与えたことは間違いない。彼は音楽家ではなく舞台人だが、まさに芸術がチャリティや寄付といった間接的な方法以外で、社会にインパクトを与えた一例と言える。
さらに、東日本大震災のあとの被災者支援やエネルギー転換に向けた社会的なムーブメントの中で、アートやエンタテイメントが、癒しを超えて、社会を動かす力になっていることも興味深い。坂本龍一・沢田研二・加藤登紀子・湯川れい子・三宅洋平さんをはじめとした著名な音楽家たちが、イベントや作品を通じてよりよい社会の実現にむけて活動を続けている。まさに音楽が、アートが、社会とつながりはじめているのである。私自身も、音楽はもとより、デザインや映像などさまざまな表現者たちとつながり合って、社会とのつながりを日々模索している。
ことは音楽や芸術に限らない。みなさんの日々の業務もよりよい社会作りに、もっとつなげる方法はないだろうか?みなさんが忙しい日常の中で、少しでも立ち止まってそんなことを考えて頂けたらとてもうれしい。ビジネスも音楽も、社会と分断せずにあり続けたい、これが私の夢だ。