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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2013. 8.  RIETI  LETTER
日常の芝居顔画像と経歴



  株式会社インプロジャパン代表取締役社長  池上 奈生美

 「芝居」という言葉に、皆さんはどんなイメージがありますか?映画、テレビ、舞台、と、まず特別な場所での「観るもの」という印象でしょうか。しかし、私たちの生活の中でも芝居は欠かせないものです。上司の前での自分、顧客の前での自分、恋人の前での自分…誰だって、どんな時だって、多少の「自分」を演じているはずです。「自分」を演じることは、処世術でもあり、社会の中で生きていくには必要なことです。しかし、それが「本当の自分」とは限らないことを忘れてはいけないと思います。

 私は、子どもの頃からお芝居は観ることも演じることも大好きでした。芝居好きな親のおかげで、歌舞伎も新劇もよく連れて行ってもらいました。テレビドラマも大好き。でも、観ながら俳優たちの演技をまねして台詞をぶつぶつ言っている私は、兄弟たちに何度も「黙って観ろ」と怒られていました。本も、小説よりも戯曲や台本が好きで、お小遣いをためて買っては家で一人芝居をしていました。なぜ、芝居が好きだったのか?今改めて自分に問いかけてみると、それは自分が解放される時間だったからだと思います。自分とは違う誰かを演じることで、「自分」を演じる必要がない。一番素直な自分でその役と向かい合うことが出来る、そんな時間だったのです。

RIETI LETTER 表紙画像  そして、中学の頃から観客の前で演じるようになり、今では演技を教えるという立場にもなりました。しかし、私が教える方々のほとんどが役者ではありません。ビジネスマン、教師、医者、SE、等々、様々な業種の方に教えています。時には、子ども達にも教えます。芝居の稽古ですが、目的は役者になるためではありません。表現力や想像力の向上のためという方もいますが、一番多い目的は「コミュニケーション」なんです。お互いに社会の中での「自分」を演じることで、関係がちぐはぐになっていくことがあります。相手を思いやるばかりに、率直に話せず誤解を招いたり、どうでもいいことばかり伝わって大事なことが伝わらなかったり…自分の思いがちゃんと伝わるコミュニケーションって難しいですよね。

 彼らに私が教えているお芝居。それは、台本がありません。設定も役柄も物語も、すべて即興で創っていく「インプロ」というエンターテイメントです。ですから、自分や仲間の意志や決断で芝居が進んでいきます。お互いの意志を受け入れ合い、助け合うというコミュニケーションをとっていくことでお芝居ができあがっていくのです。決められた台詞ではなく、すべて自分の言葉です。演じていながらも、いろんな瞬間に本当の素の自分が現れてきます。自分で自分を知ることが出来ますし、普段の日常の中でいかに自分が「芝居」をしていたかに気づけるのです。

 演じることを学ぶ事で、演じない自分と出会う。皆さんの、「芝居」という言葉へのイメージ、変ったでしょうか?



次号は、音楽家の秋山桃花さんにお願いします。
リレーエッセイ 「日常の芝居」  (リーチレター 2013年8月号)  株式会社インプロジャパン代表取締役社長  池上 奈生美

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