先日、6年と10ヶ月お世話になった電通を退職しヤフーへと転職をした。電通に特に不満があったわけではない。不満どころか非常にやり甲斐ある仕事にあふれ充実した日々を送っていた。所属していたのはクリエイティブの部署で、仕事はコピーライターをしていた。テレビCMや新聞の広告を制作する部門だ。最終的なアウトプットが成功すると世の中の多くの人が動き、メディアで放映されたり、購買行動が起きたりするのが醍醐味。
コピーライターと言うと商品のコピーを考えるだけの仕事と思われがちだが実際文字を書くだけが仕事ではない。人が何を考え、どういう広告を出すとどう動き、最終的にどんな気持ちになるのか、という「感情の設計」をするのがコピーライターの役割であり「クリエイティブな仕事」である。広告ではなく「気持ちの動き」を作る仕事である。
では、なぜ電通を離れ、ヤフーに移ったのか。それはインターネットの世界は今まさに多くの感情が渦巻き、変化している「荒れた」市場であり、新しい表現はそういった「新興媒体」から生まれると思っているからである。テレビや新聞という50年、100年歴史のあるメディアは広告も番組も記事もコンテンツが洗練され、面白い。しかし、インターネットは未熟で洗練されておらず中途半端なメディアである。たとえば炭酸飲料のCMを観たあと、コンビニに行ったらその飲料が大々的に棚に置いてあって買ってしまうことはありそうだろう。それに比べてネットメディア単体でテレビほど強いかというと、そういう心理変容はまだ起こり得るレベルには達しているものは少ないのが現状だ。しかし、通信速度がどんどん上がり、技術も進むことでネットの世界はぐんぐん成長している。そして、技術や通信速度が上がればその上に載る表現もリッチになっていく。メディアの成長こそがクリエイティブの成長なのである。クリエイティブ的にみてテレビや新聞に比べネットが優れている部分、それは「まだまだ無限に広い余白」がネットにはあるということである。誰も考えたことの無い、誰も想像することのできなかった表現を形にし、世の中に心理変容を起こし、感情を動かし、たくさんの人に喜んでもらい経済も回す。これが私の「クリエイティブ」としての解釈であり最高の喜びである。いまだ心理変容を起こすために一番強いメディアは圧倒的にテレビである。この最強媒体にも負けない表現やサービスをネットの世界から生み出したい。そんな思いから、現在ヤフーでは先端的な広告表現や商品開発のクリエイティブ作業を行っている。
電通は1947年、四代目吉田秀雄社長のとき、テレビという未成熟な媒体に可能性を見出し、それが大きく成長したことによって今の大きな地位を確立した。その時のテレビと同じようなことが今まさにネットで起きようとしている。そんな波乱万丈から次の世代の驚ける表現が生み出せればなと思っている。