昨夏、新聞各紙が銀座の真ん中の地下にある映画館・銀座シネパトスが震災を受けた東京都の指導により立ち退きを余議なくされ今年の3月31日をもって閉館すること、さらにその最後のロードショー作品としてシネパトス自体を舞台にした映画『インターミッション』が公開されることを報じた。私はその『インターミッション』という映画を作ろうと言い出し、監督もつとめた張本人なのだが、某広告代理店の一介の管理職に過ぎない映画評論家の私が、今公開を前にしていったいどうしてこんな映画を作ろうと思いつき、どうやって実現させたのかを多くの人から尋ねられる。
映画を作るにはしたたかにお金がかかる。私がこの企画を思いついた時には、資金のあても人材・機材のあても何もなかった。本当に無根拠な思いつきに過ぎなかったが、とにかく震災と原発禍を経て日本全体が元気を失っている今どき、劇場閉館にかこつけて、何か面白くはめを外したことをやりたいという思いを断ち難かった。思えば、昭和の経済と文化の発展を支えた原動力は好きな道でとことん無茶をやるという、コンプライアンスに束縛されぬ自由な精神の賜物だった。そしてまさにこの劇場で私が再検証していた昭和の映画の問題作、異色作の数々は、日だまりのような昭和の時代の自由さ、はっちゃけた精神の産物であったので、その申し送りをしたいと夢想した。
今は製作委員会方式で映画が作られることが多く、リスク排除のための無数の意見によって映画の面白さは摘まれてゆく。そんな今どきだから、あの昭和の自由な気分にたち戻って、製作費には事欠くものの、思い思いの自由な演技をもってこの映画で楽しく無茶をやってもらえませんか、というお誘いを、私は(なにかに憑かれた勢いで)33名のスターたちと邦画を支える一流のスタッフたちに投げかけた。秋吉久美子さんは私のメールを読んで、「閉館に落胆するのではなく創造の攻めに転ずるとは並々ならぬ感動を覚えました」と即座に快諾してくださった。
結果、大手映画会社の重役が「なんて豪華なキャスティングなのだ」と驚いたオールスターが、お車代ほどのギャラで、しかも衣裳まで自前で(!)集まってくださった撮影現場は、今どき珍しい創造的な自由さと楽しさが溢れ、見学に来たジャーナリストたちも「見たこともないような幸福感と一体感に満ちた現場」と異口同音に驚きを表明していた。
それは一流のキャスト、スタッフの皆さんが一様に、この閉塞感漂う時代に純粋なものづくりをもう一度やろうよと思う気持ちの凝集したものだったように思う。結果仕上がった映画『インターミッション』は、日本の現状に対する怒りと思いが湧きだした破格の作品として試写ではかなり好評を集めている。ぜひ舞台となっている銀座シネパトスの椅子に座って、この「昭和の精神の逆襲」を“体感”していただきたいと思う。