2010年にミシガンの骨董市で、これまで知られていなかった若き日のチャップリンの出演作『泥棒を捕まえる人』が96年ぶりに発見された。今回、その大発見の世界初DVD化を含む全63作品の初期短編集『チャップリン・ザ・ルーツ』(12月21日発売。発売元:ハピネット)が発売された。『街の灯』『モダン・タイムス』などの代表作と違って、初期作は何度もコピーされたぼろぼろのプリントが出回っていた。それが、デジタル修復のおかげで公開当時の美しさで蘇る。
そこには、羽佐間道夫・野沢雅子・山寺宏一ら当代の声優らによる吹替え版も収録した。「無声映画なのに声?」との疑問は承知の上だ。ただ、人気声優の声で新しい世代に人類の財産を見てほしいという一心である。
DVDだけではない。2013年3月には赤坂ACTシアターで『チャップリン・ザ・ワールド』と題して、喜劇王を題材にした人気俳優の音楽劇、人気声優による声優口演ライブを開催する。若い世代の間では早くも話題を呼んでいるそうだ。
それにしても、2014年デビュー100年を迎える喜劇王が、「文化遺産」ではなく、立派に「商売」になっているのはすごいことだ。その秘密はどこにあるのだろうか?チャップリンは生涯81作品のうち損失を出したのは一本だけという有能なビジネスマンだった。極貧の幼少期を送ったせいか、天才的な経済センスを持ち合わせており、世界恐慌の数週間前に株を売り抜けて金に替えている。
しかし、その仕事法は非効率そのものだ。彼は納得がいくまで何度も撮り直す「完璧主義者」だった。筆者は、近年発見された膨大なNGフィルムをすべて見ることのできた世界で三人のうちの一人だが、聞きしに勝る完璧主義に見ているこちらが疲れ果ててしまうほどだった。どれだけ面白いギャグでもストーリーやテーマに関係の無いものは容赦なくカット。『キッド』は完成版の53倍ものNGテイクを出し、『独裁者』は、559日間の撮影日数のうち実際にカメラを回したのは168日。残りの日々は、喜劇王がアイディアを求めて苦闘している間、スタッフも役者も待機していたというから、非効率極まりない。しかし、徹底したこだわりが人類史の傑作を産み出し、商売としても大成功をおさめ
たのだった。
一方、彼は世界で初めてキャラクターの著作権を確立させた人物でもある。映画の権利はもちろん、チョビ髭のキャラも商標登録され、今も多くの利益をうみ続けている。
要するに、天才的なセンスに、儲けを度外視した徹底したこだわり、そしていち早く知的財産の重要性を見抜いた先駆性などがビジネスの秘訣らしい。門外漢の私が申し上げるのも憚れるが、どうやら、コスト削減と効率化の話ばかり聞こえてきて、知的財産ビジネスに本気を出しているようにも見えない昨今の日本の風潮とは逆の考えのようだ。
経営者の皆様もチャップリンを改めてご覧になってはどうだろう? あの温もりのあるユーモアのなかに、閉塞を打ち破る意外なビジネス・ヒントが見つかるかも?