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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2012. 12.  RIETI  LETTER
人の芝居を受けられる役者に顔画像と経歴



女優 鷲尾 真知子

 現在、私は「大奥」という芝居で全国を巡演しています。すると街でも「見てるわよ!」と同世代や年上の方々がよく声をかけてくださる。うれしいことに「大奥」テレビ版での私のコミカルな役をご存じで、親しみをもってくださっているのです。舞台「大奥」は総勢約100人。芝居は相手役だけでなく、脚本家、演出家、たくさんのスタッフ、そしてお客様。稽古してきたことをお客様の前で演じ、役者の気とお客様の気がぶつかりあって舞台ができあがっていく。そのおもしろさを今、改めて実感しています。

 6歳の時、私は母の勧めで日本舞踊を始め、高校卒業後芝居の道に進むことになりました。女性が仕事を持つことが希少だった大正時代に生まれた母は、娘に自立した生き方をしてほしいと願い、役者ならその年齢ごとにできる仕事があるのではと考えたようです。演劇誌「悲劇喜劇」で三島由紀夫作品を上演している劇団NLTを知って試験を受けたらたまたま受かり、迷っていた高校三年生の私に「それなら学校と両立させれば」と言ったのも母でした。高校の許可を得て養成所にも通い、卒業して試験を受けて入団すると三島由紀夫さんたちは離脱。賀原夏子先生がフランス喜劇をやることになりました。それが私の芝居の出発点になり、今日に至っています。


RIETI LETTER 表紙画像

 ただ好きで始めた芝居でしたが、本当に面白いと思うようになったのは50歳を過ぎてからでしょうか。劇団という小さな組織のなかでがんじがらめになり、さまざまな要因が作用して芝居が嫌いになって辞めようかと思ったりしたこともありました。しかし演劇の世界でもいろいろな方たちがいろいろな方法やかたちで芝居を創っていることを知って、目が開けたのです。劇団時代を振り返れば、楽しかったことよりも辛かったこと、涙したことのほうが多いのですが、今ではそれが人生の大きな宝物になっています。生身の人間との関わりのなかで、多くの出会いに恵まれたことにも感謝しています。ある時、師匠の賀原夏子先生と二人で掛け合いの芝居をしていたら「真知子、どうやってもいいよ、好きにおやり」と言われたことがありました。後年になってわかったことは、人の芝居に注文をつけないこと。私は、人の芝居を受けられる役者になろうと強く思いました。

 そういう意味で、役者すまけいさんはこちらが胸を借りられる大先輩です。来年の二月にご一緒する舞台「天切り松闇語り」は浅田次郎さんの原作ですが、すまさんの声で聞きたいという演出家の発想から生まれました。一部はすまさんの一人語り、二部は山県有朋とおこんという女性の淡い恋の物語で、そこに尺八の藤原道三さんがからんでくる。過去に何十回とやっている四人の芝居ですが、すまさんの演じる、あの時代の男は実にかっこいい。芝居とは制約のあるものですが、そこでどれだけ今日を自在に生きるか。すまさんはまさにそれを示すことのできる役者さんです。久々の“天切り”、すまさんも私も年を重ねましたが、総決算のつもりで新たなチャレンジをしたいと思っています。



次号は、日本チャップリン協会会長の大野裕之氏にお願いします。
リレーエッセイ 「人の芝居を受けられる役者に」  (リーチレター 2012年12月号)  女優 鷲尾 真知子

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