コンサートの多い季節になって参りました。今年も全国各地でコンサートを行っておりますが、終了後、お客様から「尺八のイメージが変わりました!」というお言葉を頂くことが多くあります。「かすれた低い音しか出ない楽器」という認識を持つ人が多いのに驚かされますが、その人にとっての尺八のイメージとは何か?時代劇にでてくる天蓋(てんがい)と呼ばれる深編笠を被り、袈裟を付け尺八を吹く「虚無僧(こむそう)」の表面的イメージだけが先行してしまっているのではないでしょうか。テレビなどの時代劇で多用されておりますが、実際にそこで一曲演奏されることはまず無く、効果音として「ブオーッ」という音が一音鳴るくらい。多分その一こまの印象が尺八全体の印象に繋がってしまっている気が致します。実際に聴いて頂くと、様々な音色と表現を持つ楽器ということを判って頂き、「イメージが変わる」という言葉に繋がっているのでしょう。
私の師、山本邦山先生はジャズやオーケストラ、多くの民族楽器など、古典から現代までありとあらゆるさまざまな音楽と共演をしてこられ、そんな背中を見て育った私にとって尺八は決して古い楽器ではなく、今を生きる、常に最先端を目指していくことのできる魅力的な楽器であると感じていました。私自身、さまざまな音楽とのコラボレイトを行ってきましたが、そこで気付いたのが古典の魅力です。あたりまえのようにやってきたことの中に、楽器のさまざまな魅力が詰まっています。よくよく考えると、古典も出来た当時は最新の音楽で、その時を生きていた音楽であり、良いものだからこそ人々が伝えていこうと思い、年月を経て伝統と呼ばれるものになってきました。だからこそ、古典を演奏するときも、出来た当時の意気込みを感じていないと本当の曲にならないと思っております。
チェリストのヨーヨー・マが尺八を聴いて「世界で最も感情表現の出来る楽器だ!」と言ったそうです。一昨年、ウィーンフィルのメンバーとコンサートを行いアルバムを制作したときもそうでしたが、今、多くの外国人がこの楽器の魅力に気付き、クラシックの音楽家達もこの和楽器の音色の多彩さと可能性に興味を持ってくれるようになってきました。海外での指導者も増えてきて、なにより古典を大切にしてくれています。日本人がクラシック音楽で世界をはばたいているように、海外の和楽器演奏家がどんどん活躍していく時代がくるのではと思っております。
国際化している尺八、そして日本文化をあらためて日本の人々に気付いてもらいたい、そんな思いが常々念頭にあります。案外身近すぎて気付かないところに気付くことで、日本が見えてくるのではないでしょうか。今、こんな時代だからこそ和の文化を再発見してもらいたいと願っております。