街に出て、人と会話をするのが好きな私は友人に思いっきり引かれてしまう事があります。例えば喫茶店に入った時にカフェオレを頼み、「すみません、少々お時間が掛かりますが」とちょっと困惑顔の店員さんに「えー、二時間以内なら助かりますが」と返します。すると店員さんの緊張は解れ、「あはは、大丈夫です」と破顔一笑。つい目くじらを立ててしまいそうな局面も、元来のいたずら心でちゃっかり乗り切るとストレスも溜まらない。まさに一石二鳥だと自負しております。
フリーのアシスタントDJとしてマイクを握って早30年。父の影響で憧れていたプロ野球を始め、多くのスポーツ取材もさせて頂きました。が、80年代にグラウンドに立つ女性はほとんどなく、スカートを履いて行っただけで男性ス
タッフに睨まれる時代でした。
ある日、ちょっとかかとのある靴で赴いたら「芝生が傷む」とチクリ。そこで助け船を出してくれたのは、若き日の清原和博選手。「大丈夫ですよ、僕達は毎日スパイクで踏みしめているんですよ」と、茶目っ気たっぷりの笑顔と共に、大いに救って頂きました。
その清原選手を、最後オリックスバファローズに呼んだのは、名将・仰木彬監督。喋りを生業にしている私にとっても、偉大な師でした。必ず「ケイさん!」と名前を呼んで下さるし、「今日も綺麗だね〜」とサービスもたっぷり。でも何より心に残ったのは、ある控えの選手から聞いたエピソードでした。
試合の後の、チーム全体での夕食時のこと。出番もなく、不完全燃焼だった彼を見るや、ヒーロー達との美酒もそこそこに、仰木監督がビールを持って隣にいらしたのだとか。そして、彼のグラスに注ぎながら「今日は君の声援のおかげで勝てたよ」と仰ったのだそうです。控えのままで過ごす試合は、ついふてくされてしまうかもしれません。それを抑えて自軍のピンチにはどんまい、好機にはいけ〜と声の限りを尽くしていた彼を、監督はちゃんと見ていらしたのです。
前述の「今日も」は、「今日は」とは違います。選手に対する思いやりはもちろん、何気ない会話にも全て「私はあなたをいつも見ていますよ」の心が込められていました。采配面でよく言われた仰木マジックとは、実は野球そのものだけでなく、言葉のマジック。人々の心を掌握し、孤独にさせない名将の温かい言葉は、今なお心で躍動しています。
喫茶店で「コップをお下げしてよろしいですか?」と聞かれた友人の母君は「これも一緒に下げて〜」と伝票を渡したのだとか。あわよくばお店のごちそうになろうとは!上には上がいるものです。ただ最近はそのような言葉遊びが通じず「はっ?」とか、真顔で「いえ、結構です」と返されてしまうことも少なくありません。世知辛い世の中だからこそ、心と言葉で潤いを持ちたいもの。ウイットに富んだ会話のヒントは、是非勇気ある実践と、スポーツから学んでみて下さい。