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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2011. 5.  RIETI  LETTER
音楽には世界を動かすパワーがあ顔画像と経歴



ピアニスト  熊本 マリ

 昨年一月末、エジプトとヨルダンで演奏する機会をいただいた。カイロ、アレクサンドリア、そしてアンマン、私にとって初めての中東ツアーである。大使館関係者や現地の日本人会、沢山の方々のご支援のお陰で、公演は全て大成功であった。今年初め、エジプトでは政治的大混乱が起き、多くの犠牲者がでたという。一年前に目にしたピラミッドや素晴らしい景色からは、全く想像もできない。一日も早く混乱がおさまることを心から願っている。

 カイロ・オペラ・ハウスでオーケストラとの協奏曲の後、アンコールとして、奥村一の「おてもやん」を演奏した。明るく、舞曲風の作品である。終演後、「日本にもこれほど動きのある素敵な曲があるんですね」と多くの方に声をかけていただき、皆様が驚きながらもとても興味を持ってくださったことを感じた。海外では、日本の曲といえば、静かで詩的な音楽を想像するようだ。しかしながら、「おてもやん」はリズミカルで、スリリング、なのにハーモニーは日本的。新鮮に感じるに違いない。ヨルダンでも、この曲は大好評だった。現地の外交官からも、喜びの声をもらった。音楽には国境はないが、音楽で祖国を表現できると、しみじみと私は感じた。

RIETI LETTER 表紙画像

 クラシックの作品は、当然ながら西洋のものばかりだが、私自身は日本人なので、海外で演奏する場合、アイデンティティを証明するため、日本の作曲家の作品を採り上げるようにしている。奥村一は日本の民謡をピアノ用に編曲した珍しい作品を数多く遺しているが、その音楽は純粋で、どこかフランスのエスプリを感じさせる。「さくらさくら」、「江戸子守唄」など、哀愁漂う懐かしいメロディーは心に沁みる。初めてスペインでリサイタルをした時、彼の「子守唄」を演奏した。「なんて美しいメロディーだ!」と言われ、西洋人が日本のメロディーの繊細さに敏感だとその時確信した。

 私たちの心を癒し、時に元気づけてくれる音楽。聴く人の思いはそれぞれ異なるけれど、音楽は、国境を越え、人々の気持ちを変える力を持っている。ひとりひとりの気持ちが、平和と優しさで満たされれば、きっと世界全体を変えることができると、私は信じている。スペイン・カタルーニャ出身のチェリストで、平和活動家としても有名なパブロ・カザルスは、一九七一年の国連コンサートで、カタルーニャの民謡「鳥の歌」を演奏した。『私の生まれ故郷の鳥はpeace peace と鳴いています』と、世界に自由と平和を訴えた。今春、二年ぶりにリリースした新譜のタイトルは「鳥の歌」。もちろんこの曲が収録されている。スペイン人作曲家、ニン=クルメルが、ピアノ演奏用に編曲しているのだ。友情、家族、恋人、故郷への愛、そして平和と自由―哀愁を帯びた美しいメロディに、私なりの深い思いを込めて録音した。世界中の友人たちのもとに、この思いが届くよう祈っている。



次号は、俳優の石田純一氏にお願いします。
リレーエッセイ 「音楽には世界を動かすパワーがある」  (リーチレター 2011年5月号)  ピアニスト  熊本 マリ

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