昨年来、日本という国の地盤沈下に警鐘を鳴らす声が多数聞かれるようになった。GDPで中国に抜かれ世界第3位となったことが最大の契機だったかと記憶しているが、実際には、S & P の2009年世界市場調査・株価上昇率で日本が世界45ヵ国・地域中ワースト二位(44位)と惨敗するなど、日本という国の将来性・発展性が徐々に、また構造的に劣化してきていることをすでに市場は冷徹に評価していたのだ。
先日、私の著書『挑戦する経営―千本倖生の起業哲学』の中国語版出版を記念して、北京・清華大学で講演する機会を得たが、学生のパワーとハングリーさには圧倒された。講堂から溢れる聴講希望者、延々と途切れない質疑応答、しかも流暢な英語が留学経験のない女子学生から口をついて出てくるのである。
また、同じ中国の携帯メーカーで、携帯事業を営む当社イー・モバイルのパートナー企業であるHuawei 社も、日本のメーカーを遥かに凌ぐ数千人もの優秀な技術者を抱えすでに世界トップクラスの事業規模に達しているにも関わらず、チャレンジ精神溢れるアグレッシブな製品提案と走りながら解決するパワー、そして一晩で問題点を修正してくる熱意が売り物である。彼らはまた、遠くアフリカ大陸のモバイル産業を席巻するほどの国際性と戦略性も併せ持つ。
日本は、国内市場の成熟や少子高齢化など固有の要素に、世界的な経済苦境も加わり、失われた10年、20年から抜け出せないでいる。また、海外留学生の激減や海外旅行の不人気にも見られるように、外国に対する関心や外に開かれた感覚が急速に低下しているとも言われる。しかし、国家的危機感に突き動かされて欧米に学び、急速な近代国家建設を果たした明治時代や、SONYやHONDAを輩出した戦後の復興期に思いを馳せるまでもなく、日本人はもともと好奇心に満ち、勉学や向上に対するハングリー精神を強くもつと確信している。資源を持たない島国は国内市場に安住できるはずもなく、世界に目を向け、世界と積極的に関係を持たねば生きていけないのである。
ダボス会議で有名な「世界経済フォーラム」2010年版報告書で日本は二つ順位を上げ、6位となった。他国が順位を下げた結果との見方もあるが、「ものづくり」の底力である「付加価値」「生産工程」「顧客重視」などで1位となるなど、企業部門は高い評価を受けた。今後世界的に大きな成長が見込める携帯産業や、医療福祉・教育・電子政府といったICT分野もある。失敗を恐れず海外に挑んだかつてのチャレンジ精神を思い出すのに遅いことは決してない。自らの潜在能力に自信を持ち、好奇心を豊かにして真摯に勉強し、ハングリーさを思い出し、そして世界に開かれたマインドで、市場の活性化とグローバル化、そして新産業の創出に向け、挑戦を続けることが大切である。