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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2010. 5.  RIETI  LETTER
企業再生から学ぶ知恵顔画像と経歴




ジュリアーニ・パートナーズ 在日代表 片山 龍太郎

 私は足掛け18年、様々な立場で企業再生に携わってきた。経営破綻に至る企業には何か共通項はあるのだろうか。

 まず組織面ではどうか。自社が社会、市場、顧客にとっていかなる存在か、長所短所は、必要な改革は、といった自省心に基づく自己認識が無いと慢心や自己過大評価を生む。あるいはアイデンティティから大きく外れたことをして自滅する。隆盛時の成功体験に拘泥し、過去の勝利や敗北の冷徹な分析が組織の知的資産として存在しないと、惰性が働きますます自省心を希薄化する。加えて、チェック機能の弱い過度の集権ないし独裁体制が企業の文化、構造、制度、意思決定過程を濫用、改悪して既存秩序の護持に走ると、社員は内向きになりトップの意向を慮るばかりで社内の連携は弱まり、市場や顧客を見なくなる。こうした企業では、えてして合理、論理より空気や情緒、忖度で意思決定が成され易い。また、精神論や、ごく表面的感傷的に『和』や人間関係が偏重される。個々人が考え議論し納得した上でチームワークを図るより、抑圧的な集団主義が優先する。公平な、即ち能力や貢献に応じた報奨ではなく悪平等がはびこる。こうした体制・風土では優秀な人材や次代のリーダーは育たず、個性、多様性、組織の知性は低下しモラールは落ちて行く。硬直的、教条的となった組織は変革を否定し、組織のアウトプットである戦略は歪むか欠如し、環境変化に対応出来なくなる。

RIETI LETTER 表紙画像

 戦略面の問題としては、まず組織力、財務力を伴わない売上拡大至上主義がある。これを支えたのが、かつて日本の企業に多くみられた総合主義である。あらゆる物をあらゆる人に、では戦略とは言えない。また海外先進モデルにキャッチアップする時期が長かったせいか、What即ち自社が何を誰に提供するのかよりも、How即ちいかに競争相手よりうまくやるか、言い換えれば目的やコンセプトより方法論やオペレーションが偏重された。確かに『より速く』とか『より安く』という比較級の尺度は経営上重要ではあるが、それは何をすべきかよく吟味した上でのことである。How 偏重では根本的な差別化は難しく、消耗戦に陥りがちだ。また、創造的な新規参入者や代替品にあっけなく負けたり、誤った方向に能率良く突進することにもなりかねない。与えられた目的や問題を既存の選択肢から効率的に達成、解決することに長けたマネージャータイプの跋扈とは鶏と卵の関係かもしれない。Whatを唱導出来るリーダー無き集団では真の改革は成し難い。

 では窮境を回避するには、あるいは再生を進めるには何が大切か。個人として組織として健全な懐疑心を持ち目的や前提にチャレンジするとともに一種の精神分析を行うことで、自己を(再)認識することは必須である。また、悪しき独裁や組織の暴走を食い止めるにはガバナンスや内部統制等のメカニズムも重要だが、基本は自分で考え判断し連携が図れる個人である。議論を倒しても人は倒さずといった社風も大切だ。

 事業、ブランド、商品、販路等において選別的に資源投入するのは通常の経営でも必須だが、危機においては重要課題を見抜き迅速かつ集中的に改革し、早期に成功実績を示すことは社内外の信頼感を増す上で有効だ。B級秀才が多い組織では分析過剰症候群に陥り決断と実行を怠りがちである。特に再生の端緒では、半年かけて満点の案より一カ月で作った七五点の案を速やかに実行した方が効果的な場合が多い。ただし何を誰がいかなる基準で行うのか明確にして進捗をモニターすること、目標と現在位置のギャップを埋めるタスクを小組織、更に個人単位にまで落とし込み、実現出来るよう双方向でコミュニケートし続けることは欠かせない。未来像についてはバラ色すぎず一方陰鬱にもならないよう、社内外の期待値管理が出来ればなお良いだろう。

 以上は経験則の一端であるが、最後に、再生や危機管理においてはリーダーシップの重要性は平時より格段に増すと申し上げておきたい。



次号は、千葉商科大学学長、島田晴雄氏にお願いします。
リレーエッセイ 「企業再生から学ぶ知恵」  (リーチレター 2010年5月号)  ジュリアーニ・パートナーズ 在日代表  片山 龍太郎

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