「高速道路料金が、無料化されると日本の地方路線バスは壊滅する。」一見脈絡がないように見えるが、紛れもない事実であるところに、日本のバス事業の複雑で深刻な実態がある。
かつてバスは最も身近な、国民にとって欠かすことの出来ない公共交通機関だった。乗合(路線)バスのピークは、昭和43年で101億人のお客様にご利用頂いていた。平成19年の輸送人員は43億人、40年間で実に6割減である。大都市部でこそ下げ止まり傾向がみられるものの、地方部では減少傾向が依然続いている。地方バス会社の経営状況もきわめて厳しい。人件費を含むあらゆるコスト削減も限界に近づき、近年日本各地で経営破綻が相次いで発生している。
全国の路線バス約38000系統中およそ4分の3が赤字であり、その赤字系統を支えているのが、国・地方による公的な補助金と黒字系統からの内部補助である。つまり数少ない黒字系統によって赤字が穴埋めされており、そして、地方バス会社における最大の黒字部門が、高速バスなのである。
高速道路料金上限1000円施策は、高速バス事業に想像を絶するダメージを与えた。特に四国・九州地区の影響が大きく、経済不況も重なって、昨年のお盆期間中の輸送人員は対前年で約2割減少した。
新政権発足後、国土交通省と与党に対して、厳しい実態をご説明し、業界をあげて、無料化施策の見直しのお願いを申し上げ、前原大臣からも「社会実験を通じ他の交通機関に対する影響を慎重に見極め対応し、共存共栄できる総合交通体系を考える」との暖かいお言葉も頂いた。本年六月から実施される予定の実証実験において、バス・鉄道等公共交通機関に対して特段のご配慮を頂けることを切望している。
今般の高速道路無料化施策で、にわかにクローズアップされた公共交通の維持存続問題であったが、「交通・移動」について、全ての国民が自ら真剣に考えなければならない時だと思う。まさに百年の大計が求められているのである。
少子高齢化社会を迎え、特に地方では現在のようなマイカー依存型の交通体系は存続し得ず、加えて環境負荷軽減・温暖化ガス削減の観点からも、バスを中心とした公共交通機関へのシフトは必然である。現在、政府では交通基本法の検討を進めている。我が国の交通体系について崇高な理念に基づく、人にも自然にも優しい、あるべき将来像が早期に確立されることを期待してやまない。