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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2010. 2.  RIETI  LETTER
マーケター諸君!顔画像と経歴




株式会社永谷園 代表取締役会長 永谷 栄一郎

 私の大切にしているものの中に「新しいマーケティングの実際(プレジデント社)」という、もう絶版になっている本がある。花王のマーケティング部長、後に会長まで歴任された佐川幸三郎さんが、平成四年に亡くなるその直前に出版された本で、マーケティングの仕事に携わる多くの人たちに読まれている名著である。しっかりと重く厚いこの本には、マーケティングの基本から「商品・情報・広告・販売戦略」そして「エリア・フィールドマーケティング」まで数多くの実例を紹介しながら、かなり広範かつ実務的なディテールまで言及された本格的なテキストである。

 私は昭和55年から一貫して永谷園の開発部門に在籍し、その後の社長時代も含めマーケティングに関わる仕事に従事してきた。弊社は、亡くなった父が「お茶づけ海苔」を考案し、昭和二八年に株式会社として創業して以来「味ひとすじ」の企業理念のもと「創造の精神」を大切に、常に新しい商品を開発・提案することによって今日に至っている。したがって開発部は弊社の背骨とも言うべき重要な部門であり、営業と同じく競合各社との激しい闘いの最前線であった。その間、この本はいつも私の座右にあり多くの教えと励ましを与えてくれた。

RIETI LETTER 表紙画像

 何回も繰り返し読んだが、私が最も深く心に刻んだところは、「まえがき」そして第一章の「仕事の意義」の部分である。この中で佐川さんは、『仕事あるいは職業は生計をたてるため』(以下『』内は本書より引用)だけではなく、『人間社会をより進歩・発展させるための人びとに与えられた社会的分担』であり、『われわれは仕事を通じて世間の人びとに寄与している』と述べられている。さらに『自分のかけがえのない一生を悔いのないものにするためにも、また喜びに溢れたものにするために』も『財テク』『ギミックマーケティング』はダメだ、『仕事や企業の本来の意義』を忘れないように。『マーケティングは知的で創造的な仕事』であるから『小手先の手法』や他社の『真似』ではなく『創造性、革新性』にあふれた組織、『仕事の中に喜びが感じとれ、活力が溢れるようなマネジメントの仕組み』が最も重要だと繰り返し述べられている。しかもその「まえがき」は亡くなる前の年、入院先のベッドの上で書かれている。そこに佐川さんの熱い情熱とマーケターの真髄を見る思いがするのである。

 創業者でありファイト溢れる開発マンとして一生を送った父も、私をはじめ若き開発部員に同じようなことを繰り返し語りかけていた。「人まねはするな」「もっと美味しい、もっと楽しい、もっと面白いものを考えよう」「ヒントは会社の机の上ではなく、スーパーの店頭やデパートの地下にある。自分の目で探せ」「調査データだけでなく自分の舌を信じろ」等々。やはり晩年は病床に臥し、食事も満足にとれなくなってもいつも楽しそうに新商品のアイディアを考えていたものである。その教えのなかで大勢の社員諸君が他社のマーケターとしのぎを削り、いろいろな分野の企業の活動に刺激を受けながら一人前のマーケターとして成長してきている。

 現在、日本の国内市場はデフレや低価格販売競争、全体の収縮が進み息が詰まるような閉塞感が漂っているが、私は潜在的な消費エネルギーはまだ健在だと信じている。私たちのような食品企業がより創造的な魅力ある商品やサービスを提供することによって、日本の食卓をもっと豊かにし、食べることの喜びを感じられる潤いのある生活を実現できると信じている。それは食品産業だけではなく、あらゆる分野で言えるはずだ。

 マーケター諸君、今こそ背筋を伸ばし、自分の持つ知識と知恵と想像力を結集し、大きな喜びと興奮のなかで素晴らしい開発をしようではないか。それが私たちの、社会に対する大きな貢献になるという責任と誇りを持って!



次号は、三菱鉛筆(株)代表取締役社長、数原英一郎氏にお願いします。
リレーエッセイ 「マーケター諸君!」  (リーチレター 2010年2月号)  株式会社永谷園 代表取締役会長  永谷 栄一郎

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