リーマンショックから一年、世界は少しずつ落ち着き始めていると言われるが、2009年の世界経済は未だ「集中治療室」状態で、各国も生命維持装置を何本も繋げているという時代背景のなかで、テレビ、雑誌、ビジネス情報誌などのメディアが老舗の生き方とロングランセール商品にスポットを当てた内容の取材が多くなった。
その対象のひとつとして、日本橋大伝馬町で事業を構えて110年の小社が取り上げられる機会がめっきり多くなった。日本橋には江戸幕府406年の間の江戸商人にルーツを持つ、200年、300年を越える歴史を持つ企業が健在するなかでの110年はとてもとても「ひよ子」の存在ではあるが、そこにスポットが当たるのは何なのか。明治32年(1899年)、「腐らない、固まらない、良い香りのする」瓶詰のヤマト糊が生まれて、一般市場に販売され大当たりした商品をルーツとして、時代の進化と顧客ニーズに応える商品開発の姿勢を貫き、急激な変化をもたらしている流通システムに対応して、シェアの拡大につなげてきた。
近年の国際環境の激変は、世界が一つの市場に統合されるグローバル化が急速に進展し、世界経済が変化する長期的方向を決める小産少子化による人口構造の変化が進んでいる。更に加えて、地球温暖化を抑える低炭素化、グリーン化の対応は社会問題、経済問題として存在する。このような企業を取り巻く環境の激変のなかで、歴史の潮流の様々な変化を乗り越え生き残った老舗の生き様は、何かの示唆を与えるのではないかとのメディアの注目ではないかと考えられる。
日本橋で商売を何百年と続けている老舗には、江戸商人としての伝統的な教えがある。それは「ぶらない」「こだわらない」「調子にのらない」ということで、「ぶらない」とは、いい格好をするな、見栄をはるな。「こだわらない」とは、変化に順応し柔軟な発想をもてといい、「調子にのらない」とは、世間の情勢をじっくり観察して軽く動くなと教えている。世の中で生きていく知恵として、手段としての「江戸の心意気」は学ぶところが多く、慎重に真面目に身の程を知って、本業に精進しろといっている。そのことを江戸弁で「ほどほどにおしよ」という言葉で教えている。様々なショックのなかを生き残った老舗は時代の激流のなかで恐れず、怯まず、捕らわれず、常にイノベーション、オリジナリティー、ローコストを経営の機軸において、企業の社会的責任を果たしてきたのであろう。
「ものとものとをくっつけることで新しい価値を見出す」というコンセプトで、老舗の使命を守り、新しきにチャレンジする精神は今後も変わらない。