米国に永住している親は大統領選挙を11回体験していますが、今回は私の母が初めて高い関心を持ったそうです。インターネットを積極的に活用したバラク・オバマの選挙活動が若い世代の政治意識を高めたという指摘がありますが、実は世代を超え、さらには米国の投票権が無い人々からも熱い視線が今回の大統領選挙に集まっていました。
黒人と女性の大統領候補が競う話題性はありましたが、根本的な理由は、バラク・オバマの「チェンジ」という呼びかけに多くの人が反応したのではないでしょうか。特に9・11以降の米国の方向性に、「このままではおかしい」と違和感を抱いた人は、米国のみならず世界中で少なくないと思います。
昨今の資本主義のあり方にも「このままではおかしい」と感じた向きが少なくないでしょう。まさに、「チェンジ」が余儀なくされる事態に陥りました。ただ、家計の貯蓄という民間力に恵まれている日本は、「おカネ」の有効的な使い方という課題に応えることができれば、相対的に優位な時代に入ったはずです。
今までの資本主義ではROE(資本収益率)やIRR(資本効率性)を高めることが常識とされていましたが、多くの日本人は、これには反応しませんでした。そのため、日本では「投資教育」の必要性が内外から指摘されました。この考えは一理あるものの、単年度のROEを高めることが事業の最優先すべき経営目標という昨今の資本市場の常識が、過剰なレバレッジ資本主義を招き、現在の金融大不況へとつながったともいえます。今までの資本主義の常識に応えなかった日本人の感性に、実は、持続性の要素が潜在的に含まれているのかもしれません。
ただ、今回の米国大統領選挙のように、今まで投資に関心がなかった日本の生活者に「チェンジ」の機が熟し、資本主義への参加意識が高まるためには何が必要なのでしょうか。
多くの日本人の生活には「子供の教育」は一大事であり、次世代のために費やすことにためらうことのない「長期投資」を実施しているともいえます。一方、「投資」という言葉や行為に関心が高くない日本人が少なくあり
ませんが、これは、投資とは「自分が今、儲ける手段」という次元に考えが留まっているからでしょう。
投資とは自分自身の利益ということだけではなく、「次世代へ想いをつなげる」手段にもなります。財産を次世代に美田として遺すことに長所短所がありますが、先祖の恵みを単に相続することと、例えば、自分のために親や祖父母が長期間に積み立ててくれた「30年投資」の果実の味は違うと思います。
「30年」は遠い未知の次元と思うかもしれませんが、実は、一世代という身近な存在でもあります。両親や祖父母がどのような想いで、自分がこの世に生まれたときから毎月、定額のお金を積み立てて投資をしてくれたのか。両親や祖父母が現役だった30年前の日本や世界は、どのようなものだったのか。このように次世代と旧世代の間の「物語」づくりに、「30年投資」は貢献できるものだと思います。そして、このような一家の世代間の想いの伝達が、投資信託を通じた長期資金として企業へ提供する資本市場の土台になることができれば、まさに、これは歓迎すべき資本主義の「チェンジ」でありましょう。