昨年永らくお世話になった銀行を退職し
た。失われた十数年のダメージから銀行も
日本も力強く回復し、銀行とは違った環境
で仕事をする機会を得たことは新鮮で、そ
れがまたグローバルなプライベートエクイ
ティ(以下、PE)というファンドであっ
たため、自身を取り巻く環境は激変したと
いっていい。一様に皆さんの反応は「な
んでまたファンドなんかに」、「ハゲタカに
なってどうするの」というものであったよ
うに思う。それから一年、ファンドに対す
る世の中の評価はかなり冷静になってきて
いるように感ずる。少なくともファンドと
一括りにして論ずるべきではないという論
調が多くなってきたことで、PEファンド
に携わる者としては一層襟を正し企業価値
向上のお役に立ちたいと思う毎日である。
PEという立場から俯瞰して見える世界
は、世界におけるグローバリゼーションと
我が国における買収防衛に代表される内向
き思考との大きなギャップである。世界で
起こっていることをことさらに説明する必
要もないと思うが、それにしても欧州系の
鉄鋼会社といい、ビールメーカーといいや
ることが大きい。大が大を買収し超大企業
になる動きを私はグローバルなネットワー
キングと考えている。もはや世界の最前線
での勝負はオーガニックな成長を待たず、
買収被買収により巨大なビジネスのネット
ワーク構築、すなわち世界的陣取り合戦に
なっているというわけだ。
ネットワーク化を実現するにはいくつかの
要件がある。まず言語は共通でなければなら
ない。通常英語を使う。次にルールも同じで
なければいけない、特に会計原則は大切だ。
さらにもう一つ、多様な文化をお互い容認す
ることである。瞬時に一緒になっているので、
異文化の受容ができないと大変である。大型
合併がいつもうまくいくとは限らないのはこ
ういう要件の未充足にある場合が多い。
翻って我が国の買収防衛である。いかにも
かつての攘夷的ではないだろうか。確かに企
業を今のまま存続させようと思えば、外部者
と一緒になる選択肢は危険にすら思われるだ
ろう。終身雇用、年功序列の身内社会は、最
も内向きの世界であるから買収防衛は即ち攘
夷といえよう。これはよく理解できる。しか
しこの攘夷思想は前述したグローバルなネッ
トワーキングとは明らかに相容れない。この
まま行けば人口が減りゆく国の市場の中で、
活力を失っていく可能性が高い。
これはどこかで見た風景ではないか。そ
う、幕末の状況に酷似している。攘夷を貫
けば強い外国勢にやられるのはわかってい
る、が、さりとて「尊皇 日本」を保持す
るためには攘夷でなければならない。この
ジレンマを克服し思い切って開国に頭を切
り換えることが出来たのは、和魂洋才とい
う知恵(頭の切り替え)だったように思わ
れる。身内の文化を守ろうとするあまり、
合理性のない防衛策をとるのではなく、積
極的に世界に打って出てグローバルネット
ワークの中で勝負するべき時に至っている
のではないか。グローバルなプライベート
エクイティファンドとして、日本の企業の
大いなるグローバル化のお手伝いをしたい
と強く思っている。