「こころ」と言っても夏目漱石ではない。
日々、人間はいろいろな感情をもって仕事
に取り組む。それは人間が人間たる所以で
ある。私は、従業員110名ほどの中小企
業を経営する立場にあるが、毎日、自分、
そしてみんなの「こころ」の動きと格闘
していると言うのが正直なところである。
日々、会社という組織で活動する人間の「こ
ころ」の動きについて思うことをこの場を
お借りして考えてみたい。
まずは「愛」。愛というと少々大げさで
あるが、やはりこれがないと、職場はうま
くいかない。英語でいえばLoveとか
Care。いまだに「終身雇用制」を前提
としているわが社においても、先輩が後輩
を育てる愛情が希薄になってきている気
がする。愛社精神なんていうとちょっと気
恥ずかしい雰囲気がある。仕事やわが社の
製品に愛着をと願うのは経営者ばかりだろ
う。これはなぜであろうか?いろいろと原
因が考えられる。まず、「技術変化」(わが
業界でも!)があり、先輩もわからないこ
とが多くなっている。また、「年功色」を
少し薄め、ほんの一部とはいえ「成果主義」という評価制度の導入したことにより、結
果をださなければならないという風潮が強
くなり、のんびり教えているとすぐ追い越
されてしまう。愛情が希薄になったわけで
はなく、その余裕がない。「技術変化」と
いう外部環境。「終身雇用」だけど「年功
主義より成果主義」という経営の選択。会
社、仕事、仲間、製品を愛してほしいとい
う経営者の身勝手な思いとは裏腹に社員の
こころは離れていってしまう。裏を返せば、
会社、仕事、同僚に愛があれば、不祥事は
起きるわけがない。
次に、「挑戦する気持ち」。これは会社で
特に難しいが愛と同じくらい重要なこと。
やったことがないことに挑戦するのは大変
なエネルギーを要する。新しいことにとり
くむ、あるいは、何かを変えるとなると、
うまくいかないリスクもある、わからない
ことが沢山ある、そしてつらいことばか
り。はっきり言って取り組まないほうが無
難である。しかし、社員みんなが、その先
に素晴らしい事があると信じることができ
れば、エネルギーを要しようと、苦労があ
ろうと乗り越えられるはず。どう説明のしようもないが、開発、設計のこだわり、加
工のこだわりなどなど、「職人気質」はわ
が社に存在する感情(どこまで成果に結び
つくかは別問題だが)。物づくりはやっぱ
り「俺(私)はこうする!」という信念が
なくてはならない。このこだわり、そして
信念が、挑戦する気持ちをドライブする。
今、会社を経営するうえで必要なことは次
の素晴らしい事という「ビジョン」を明示
し、それに挑戦することを称えあう。これ
を会社の文化にしたい。
社員みんなで、今日も「こころ」と格闘
する。もちろん、人間たるもの、こころと
か志だけでは生きていけない。労働の対価
としての賃金も大切。我々中小企業は、愛
とか挑戦する気持ちを大切にして、一人ひ
とりに実力以上の力を発揮してもらい(願
わくば全員であるが)、大企業に負けない
効率をあげるしかない。がんばりに公平に
報いつつも、全体としての労務費を抑える、
そしてその正のサイクルをまわし続けてい
くことしか生き残る道はない。