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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2008. 3.  RIETI  LETTER
これからはコンテンツよりもノウハウが重要顔画像と経歴




慶應義塾大学理工学部
教授  伊藤  公平

 全国の大学においてファカルティーデベ ロップメント(FD)、すなわち教員の能 力向上に対する取り組みが重視され始めた。 FDは欧米発のコンセプトだが、セットと なる教員評価が難しい。そこで、総合大学 を例に評価法の日米比較を行ってみよう。 評価項目は大学運営・研究・教育への寄与 であり、最後に私が所属する慶應義塾を例 に大学ごとの個性の大切さを強調したい。

 米国では、肩書は同じ教授でも経営・運 営に携わる者には大幅な給与増が与えられ る。すべての教員には毎年9カ月分の給与 しか与えられないため、自ら集めた研究費 の一部を残りの給与3ヶ月分に充てる。ま た、集めた研究費の半分が消費税のように 大学に召上げられ大学経営に充当されるた め、大学の繁栄のためにも教員の集金能力 が給与査定の対象となる。特に驚くのが、 例えば医学と哲学(例に使ってごめんなさ い)の教員では市場価値が違うので、競争 的に良い教員を採用するという観点からス タートの給与が全く異なる。研究内容や社 会活動に対する評価も厳格で、優れた研究 者や社会的影響力に優れた教員は授業負担 が軽減される。教育評価は、講義ごとの履 修学生によるマークシート型評価が基本で ある。科目ごとに、生活に十分な給与が支 払われる大学院生教育補助員(TA)に加 え宿題採点要員が雇われる場合もある。こ れだけ固められると逆に教員は手が抜けな い。米国大学は徹底的な資本主義によって 運営されているのである。

RIETI LETTER 表紙画像  一方、日本の大学での運営活動は滅私奉公 で、学長・学部長・主任などは僅かながら能 力給が高くても、長時間労働に加え、ポケッ トマネーによる外部講師の接待や大学への寄 付活動の旗振りなどによってあっという間に 増額分以上の金額を失うことになる。教授と いう肩書であれば専門分野によらず給与体系 は同じで勤続年数のみが重要である。研究費 の一部が間接経費という名目で大学に支払わ れるようになったが、それが給与査定に反映 される例は少ない。世界的研究者であっても 授業負担は軽減されず、マークシート型の授 業評価も実施されるようになったが、それを どう使うべきかで議論が分かれている。要は 社会主義が見事に実践されているのである。

 資本主義によって考案されたFDを社会主 義の大学に適用するのは無理だ。日本の伝統 は美しく、教員の奉仕意識の高さと熱意には 目を見張る。しかし、大学卒には資本主義社 会に身を置き少子化に負けない日本経済の発 展の担い手となることが切望されている。ど うすればよいか?慶應義塾の例では進むべき 道が福澤諭吉の「学問のすすめ」 に明記され ている。有名な「天は人の上に・・」は人類 皆平等のはずだが社会地位が異なり金持ちが いるのはなぜか?それは正しい学問を実践す るかしないかの違いだと説いている。自然に 慶應義塾は現代の資本・民主主義を正しく先 導する教員研修と評価の確立を目指すことに なるが、これは単純に設立趣旨によるところ が大きい。よって、今こそ個々の大学が設立 趣旨を見つめなおし、他人とは違う個を打ち 出すことから、目先ではなく半世紀後に社会 から認められる教育方針と評価法を築き上げ る時である。



次号は、鉄道機器叶齧ア取締役、吉田晃氏にお願いします。
リレーエッセイ 「大学教員の評価」  (リーチレター 2008年3月号)  慶應義塾大学理工学部  教授  伊藤  公平

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