(財)経済産業調査会ロゴ <<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内
リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2007. 10.  RIETI  LETTER
ダボス会議は暗黙知の宝庫?顔画像と経歴




一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
石倉  洋子

 ICT(情報通信技術)が加速度的に 進む中、グーグル等が世界の情報を体系化 し、英語圏の大学や研究所がその知識資産 をパブリックのために積極的に公開してい る。こうした情報や知識のほとんどは、文 書化・デジタル化できる情報(形式知)だが、 ICTがどれだけ進んでも、直感、ノウハ ウなど、主観的で同じ経験や物理的な場を 共有しないと得られない主観的な知識(暗 黙知)も重要だ。日本では特に、ロジカル な考え方や表現、分析を基盤とする形式知 よりも、あうんの呼吸や共感、「同じ釜の 飯を食った経験」などから得られる暗黙知 を重要視する傾向が見られるようだ。

 しかし、暗黙知は、日本だけ、日本人だ けには限らない。たとえば、毎年一月にス イスのダボスで開かれる世界経済フォーラ ム(WEF)のダボス会議は、暗黙知の宝庫 である。この会議は三○年以上の歴史をも ち、世界から数千人の政治家、実業家、学者・ 研究者、NPO、芸術家など多彩な分野を 代表する参加者が、数日間にわたって世界 の課題を議論する場である。朝七時から真 夜中まで、合計数百に達するセッションが 平行して開かれ、貴重な知識創造・共有・ 転換の場が生まれる。公式セッションにつ いては、会議のサマリーやビデオが、イン ターネットを通じて、世界に公開されるた め、どこにいても見ることができる。こう した文書やビジュアルは形式知といえよう。

RIETI LETTER 表紙画像  しかし、ダボス会議が価値を持つの は、この場が、暗黙知の宝の山だからであ る。そこに皆がいることから、数々のイン フォーマルな出会い、話が始まる。多様な テーマについて、数々の発言や議論を聞き、 自らも質問やコメントをするうちに、世界 が向かっている方向、疑問や課題、対立点 などがしだいに感覚としてわかってくる。 もちろんいくらタフで積極的でも、朝食会 から、並行セッション、ディナーや夜遅く まで開かれるレセプションすべてに参加す ることはできない。しかし、一日中、その 場で議論に参加していると、まだはっきり した動きとはなっていない(したがって、 記事やレポートなどにはなっていない)が、 政界、学界、実業界、また国や地域の経済 開発段階、文化の違いを超えて、今、世界 が重要と考えている課題、関心を持つ分野 やテーマはこんな項目らしい、見解はこれ だけ幅広いなどが体感できる。特に、ダボ スではテーマや意見がひとつに集約するこ とがなく、疑問や見解の相違がそのまま出 て、それが議論の出発点となる。 

 最近特に、中国やインドが世界でも脚光 を浴びる一方、日本からの情報発信が少な く、日本の存在感がうすくなっているとい う懸念がある。私の疑問は、G8サミット の数倍のレベルで世界のマスコミが報道す るといわれ、世界に発信する理想的な場の ひとつであるダボス会議がなぜ日本であま り報道されないか、会議に対する日本の関 心がそれほどないか、また積極的に参加す る人が少ないか、という点である。暗黙知 を重要視すればこそ、またICT時代に鍵 となる暗黙知の宝庫だからこそ、ダボス会 議には大きな役割があり、それを日本でも よく知り、最大限活用すべきだと思う。



次号は、日本アイ・ビー・エム(株)技術顧問、 内永ゆか子氏にお願いします。
リレーエッセイ 「ダボス会議は暗黙知の宝庫?」  (リーチレター 2007年10月号)  一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授  石倉  洋子

 info@chosakai.or.jp
 http://www.chosakai.or.jp/

無断転載を禁じます 財団法人経済産業調査会
Copyright 1998-2006 Reserch Institute of Economy, Trade and Industry.
<<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内