現代の社会において、人々が安全、安心、便利で快適な生活を営むために、エネルギーは欠くことができない存在であり、日本が今後、安定した経済成長を持続していくためには、エネルギーの安定的な確保が前提となる。しかしながら、我が国は今なおエネルギーの八割以上を海外からの輸入に依存しており、国の安全保障の観点からも将来に向けたエネルギー確保は大変重要になっている。
過去を振り返ると、日本が戦後六○年以上に渡り、平和と経済の繁栄を維持してきた背景には、二度の石油ショックをはじめ、近年では成長著しい途上国のエネルギー需要増大などを背景とする価格高騰、資源ナショナリズムの台頭、不安定な中東情勢など、グローバルなエネルギー供給不安が幾度となく顕在化した際に、結果的にせよ様々な対策によって何とかそれに対応してきたという歴史的事実を見出すことができる。
加えて、近年は石油、石炭など化石燃料を中心としたエネルギー消費の増大による大気汚染や地球温暖化問題など、環境への影響が深刻化しており、量としてのエネルギー確保だけでは不十分で、いかに環境負荷の小さいエネルギーの割合を増やし、またそれを効率的に使うかということが、地球規模での課題となっていることはご承知のとおりである。
このような視点に立つと、今まさに日本が、その先進的なエネルギー、環境関連技術の開発、普及を通じ、世界の安定と平和に貢献する時がやってきたのではないかと感じる。
具体的な例では、世界的に見直されている原子力の利用推進、バイオマス、太陽光、風力などといったクリーンエネルギーの更なる利用拡大、そして今後は燃料電池に代表される水素の利用技術の確立などがある。燃料電池は水素と酸素と結合させることによりエネルギーを取り出すため、排出されるのは水というクリーンなシステムであるが、化石燃料などから水素を取り出す際にはエネルギーが必要になる。また、水素を利用する場合には、供給、輸送、貯蔵などのインフラを整備する必要があり、水素の製造から消費に至るまで、トータルのエネルギー利用効率、コスト収支、環境に与える影響などを勘案し最適なシステムとして構築する技術が必要になる。この他にも、日本は省エネ技術や、エネルギー利用に伴う環境への負荷を低減させる技術で世界のトップランナーになる可能性を持っていると思う。
資源に恵まれない日本は、長くその不利と戦って経済成長を達成してきた。今やそうした制約は世界共通のものになりつつあり、それを克服する技術、システムの実用化に辛抱強く取り組み、世界に先駆けて開発したことが、日本をエネルギー、環境分野で世界のリーダーの有力候補に成長させたのだと思う。日本のエネルギー関連技術が、自国のエネルギー問題を解決することにとどまらず、世界の平和と安定、経済の発展に貢献することを願ってやまない。