最近、囲碁人口が激減している。会社の囲
碁部はとうとう無くなり、OB囲碁会のみが
盛んだ。団塊の世代の人たちは、一体何を趣
味として生活してきたのであろう。私は日本
棋院総裁として、今は青少年の囲碁熱に望み
を託している。何故こんな書き出しかという
と、私にバトンを渡して下さった中原恒雄氏
は、六十年近く前の東大囲碁部のキャプテン
であり、私はその末席を汚していたからだ。
閑話休題、今回は原子力の話をしたい。
原子爆弾が広島に落ちた時、私は帝国海軍
最後の兵学校生徒で、山口県防府にいた。敗
戦間もなく帰京する際、広島を通り、その悲
惨な状況に息をのんだ。
その罪滅ぼしか、六十年前にアメリカ大統
領のアイクが、
「アトムズ・フォー・ピース」を
唱えた。当時、新進気鋭の中曽根康弘代議士
はアメリカでこれを聞き、日本にも原子力の
平和利用を、と運動して、日本の原子力平和
利用三法が出来た。一九五五年のことである。
これには、軽水炉は勿論、核燃料サイクル、
フュージョンまで展望されており、その他の
放射能の平和利用までもが唱えられていた。
それから、五十年経った。現在、我が国の
軽水炉は五十五基、一次エネルギーの十数%
を担う。また、究極のエネルギーである高速
増殖炉も、もんじゅの事故で十年間中断した
が、近いうちに再稼動することになっている。
気の長い話だが、四十年後には商業炉が動い
ている筈だ。
それまでは、使用済み燃料を再処理して
出来たプルトニウムをウランと混ぜ、MOX
燃料として使用する話が進んでいる。今、十
七、八基がMOX燃料を使えるところまで来
つつある。
こうした中で、経産省は今般、原子力立国
計画を発表した。誠に時宜を得ている。
原子力は、再生産可能な究極のエネルギー
である。また、CO
2
の発生は殆ど無い。隣
国である中国は、経済発展のためにエネルギ
ーを濫消費し、石油やガスを世界中から買い
漁っている。また、石炭を二十億トン燃やし、
大量のCO
2
を発生させている。こうしたこ
とから、エネルギーの安全保障と、地球環境の
ためにも、原子力の利用拡大は不可欠である。
また、アメリカ・イギリス・スウェーデン
など、世界的にも原子力発電見直しの気運が
盛り上がっている。「原子力ルネッサンス」
と言われる所以だ。
しかし、原子力発電と、核兵器開発は隣り
合わせだ。北朝鮮やイラン問題など、人類の
将来に心配な要素もある。
日本は、核兵器を持たない国の中で、唯一、
核廃棄物の処理が認められている。疑いを除
くためにも、出てきたプルトニウムは直ちに
MOX燃料にしなければならない。こうした
平和利用には、国際的な大人の合意と、国内
にあっては原発立地地域の協力が不可欠だ。
その協力を得るためには、原子力産業に携わ
る者は、絶対事故を起こさない覚悟を持つ必
要がある。そして国内的に、国民の信頼感を取
り戻さねばならない。また、平和利用の先進国
としての模範を世界に示さなければならない。
五十年振りに、装いを新たにした原産協は、
こうしたことのために重要な役割を担ってい
る。私はその会長として、今後、積極的に行
動していくつもりである。