今年の初め中国の上海とインドのムンバイ
(旧ボンベイ)を訪問する機会があった。
上海は人口約一七○○万人、中国最大の経
済、金融、貿易都市である。二○一○年の上
海万博に向けて準備を進めている。中国はこ
のところ一○%近い経済成長を続けており、
上海も経済発展とともに土地バブルが懸念さ
れるほど地価が上昇している。最近、中国人
民銀行(中国の中央銀行)は、上海支行を北
京本行と並ぶ本行に格上げした。ムンバイは
人口約一六○○万人(一説では一八○○万
人)、一七世紀以来東インド会社の活躍によ
り発展したインド最大の経済、金融、貿易都
市である。インドは最近七.八%の経済成長
を遂げており、ボンベイ証券取引所の株価は
高騰している。インド準備銀行(インドの中
央銀行)は、ムンバイに本店を置いている。
この二つの都市は、それぞれの国の中でよ
く似た地位を占めているが、都市の様相は全
く異なる。上海の都市整備はハイピッチで進
んでおり、街路樹が整然と並んだ高速道路や
浦東新区の高層ビル群は東京と見まがうほど
である。ムンバイの人口の約半分はスラム街
に住んでいると言われている。道路は劣悪で
交通渋滞が激しい。この違いはどこから来る
のか。それは中国は共産主義国家として計画
的な街造りを進めているのに対し、インドは
民主主義国家でありスラム街の住民を含め市
民の賛成が得られなければ市街地再開発がで
きないことによる。民主主義の非効率な側面
が開発のネックになっているのだ。
中国が現在のような経済成長を続けると二○二○年代中頃には中国のGDPは日本のG
DPを追い抜くという試算がある。また、イ
ンドの人口は毎年約一・八%増加しており、
二○三○年頃にはインドは中国を抜いて世界
一の人口を擁する国になると見込まれてい
る。このように中国とインドはアジアにおい
て大きな存在になりつつあるのは事実だが、
まだまだ解決すべき多くの課題を抱えている
ように見える。中国では公共工事によって生
活の基盤を失う人々が政府への抗議行動を起
こし、全国で年間七万件を超える騒擾事件が
起きていると伝えられているが、その実態は
あまり報道されていない。ほんの一例に過ぎ
ないが中国の国政の透明性は高いとは言えな
い。インドは人口でみると世界最大の民主主
義国家だが、人々はいまだに身分制度に縛ら
れている。これが社会生活に与える影響は計
り知れない
アジアはヨーロッパと比べると統一性より
も多様性に富んだ地域である。日本の発展は
このような多様性に富んだアジアの発展とと
もにあるとすれば、日本はアジアの中でどの
ような役割を果たすべきなのか。アジア地域
の統合を目指して東アジア共同体構想などが
語られているが、日本の長期的なアジア戦略
が大きな課題であると思う。