(財)経済産業調査会ロゴ <<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内
リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2006. 5.  RIETI  LETTER
上海とムンバイを訪ねて顔画像と経歴



日本銀行副総裁
  武藤  敏郎

 今年の初め中国の上海とインドのムンバイ (旧ボンベイ)を訪問する機会があった。

 上海は人口約一七○○万人、中国最大の経 済、金融、貿易都市である。二○一○年の上 海万博に向けて準備を進めている。中国はこ のところ一○%近い経済成長を続けており、 上海も経済発展とともに土地バブルが懸念さ れるほど地価が上昇している。最近、中国人 民銀行(中国の中央銀行)は、上海支行を北 京本行と並ぶ本行に格上げした。ムンバイは 人口約一六○○万人(一説では一八○○万 人)、一七世紀以来東インド会社の活躍によ り発展したインド最大の経済、金融、貿易都 市である。インドは最近七.八%の経済成長 を遂げており、ボンベイ証券取引所の株価は 高騰している。インド準備銀行(インドの中 央銀行)は、ムンバイに本店を置いている。

 この二つの都市は、それぞれの国の中でよ く似た地位を占めているが、都市の様相は全 く異なる。上海の都市整備はハイピッチで進 んでおり、街路樹が整然と並んだ高速道路や 浦東新区の高層ビル群は東京と見まがうほど である。ムンバイの人口の約半分はスラム街 に住んでいると言われている。道路は劣悪で 交通渋滞が激しい。この違いはどこから来る のか。それは中国は共産主義国家として計画 的な街造りを進めているのに対し、インドは 民主主義国家でありスラム街の住民を含め市 民の賛成が得られなければ市街地再開発がで きないことによる。民主主義の非効率な側面 が開発のネックになっているのだ。

RIETI LETTER 表紙画像  中国が現在のような経済成長を続けると二○二○年代中頃には中国のGDPは日本のG DPを追い抜くという試算がある。また、イ ンドの人口は毎年約一・八%増加しており、 二○三○年頃にはインドは中国を抜いて世界 一の人口を擁する国になると見込まれてい る。このように中国とインドはアジアにおい て大きな存在になりつつあるのは事実だが、 まだまだ解決すべき多くの課題を抱えている ように見える。中国では公共工事によって生 活の基盤を失う人々が政府への抗議行動を起 こし、全国で年間七万件を超える騒擾事件が 起きていると伝えられているが、その実態は あまり報道されていない。ほんの一例に過ぎ ないが中国の国政の透明性は高いとは言えな い。インドは人口でみると世界最大の民主主 義国家だが、人々はいまだに身分制度に縛ら れている。これが社会生活に与える影響は計 り知れない

 アジアはヨーロッパと比べると統一性より も多様性に富んだ地域である。日本の発展は このような多様性に富んだアジアの発展とと もにあるとすれば、日本はアジアの中でどの ような役割を果たすべきなのか。アジア地域 の統合を目指して東アジア共同体構想などが 語られているが、日本の長期的なアジア戦略 が大きな課題であると思う。



次号は住友信託銀行会長、高橋温氏に お願いします。
リレーエッセイ 「上海とムンバイを訪ねて」  (リーチレター 2006年5月号)  日本銀行副総裁  武藤  敏郎

 info@chosakai.or.jp
 http://www.chosakai.or.jp/

無断転載を禁じます 財団法人経済産業調査会
Copyright 1998-2006 Reserch Institute of Economy, Trade and Industry.
<<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内