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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2015. 4.  RIETI  LETTER
「「受託者責任」と金融」顔画像と経歴



  国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問 末吉 竹二郎

 「受託者責任」。聞きなれない言葉である。そもそもは第三者(委託者)から職業的サービスの提供を受託した専門家(受託者)が負う法的義務をいう。両者の関係は信頼に基づき、受託者は自己の利益のために行動してはならない。

 こう考えると、受託者責任は社会のあちこちに存在することに気付く。無論、金融にもある。例えば、年金基金(受託者)が加入者(委託者)に負うそれである。その受託者責任にいま革命的変化が進行中である。従来、資金運用者の受託者責任は、「財務リターンの極大化」とされてきた。換言すれば、お金で計れる投資リターンが最優先されるものであって、環境問題等は余計なことであった。

 ところが、温暖化問題等の深刻化につれ、利益最優先の投資の在り方を見直す機運が生まれてきた。目先のお金儲けだけで動く投資資金が地球規模の問題を引き起こす要因の一つだったのではとの反省からである。

 考えて見よう。年金基金の本来的役割とは何だろう。それは加入者への遠い将来の年金支払いである。つまり、安定・安心な年金生活を過ごせるようその経済基盤を確保するのが年金基金の中核的任務である。

RIETI LETTER 表紙画像
 その年金基金が目先の財務リターンを追求すればする程に、投資判断の目が曇り、結果として、地球環境や生物多様性を壊す企業への投資となって仕舞いかねない。そうなれば、年金加入者の将来生活を守るはずだった年金基金が、逆にその生活基盤を壊すことに繋がる。正に本末転倒である。では、どうすれば年金基金による投資が加入者の将来生活を守れるのか。

 そうした思いから生まれたのが「責任投資原則(PRI)」である。PRIの柱は、投資判断に財務要因だけでなく、環境や社会的責任等(ESGと呼ぶ)も反映させるというものだ。それまでの「お金のことはお金だけでしか考えない」と言う伝統をひっくり返したのである。お金のことをお金だけで考える時代はもう終わったのである。

 実は、金融の変化はこれに留まらない。例えば、スチュワードシップ・コードだ。リーマンショックの反省から投資家に一層の規律を求めるこのコードは英国で生まれ、昨年2月には日本版も出来た。

 一方、投資対象企業にCO2削減を求める機関投資家の運動も始まった。石炭産業などCO2をたくさん排出する企業から投資を引き上げる運動(Divestment)が米国の大学キャンパスを賑わしている。

 なぜ、金融は変革をせまられるのか。それは地球規模の問題解決には、お金の流れを変えねばならないからだ。成長至上主義に陥った20世紀型経済から21世紀が必要とするグリーン経済へ転換するには「グリーン金融」が欠かせないのだ。

 健全な社会は健全な金融を必要とする。その要請に応えることこそ金融の受託者責任である。



次号は、北海道下川町環境未来都市推進本部長の春日隆司氏にお願いします。
リレーエッセイ 「「受託者責任」と金融」」  (リーチレター 2015年4月号)  国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問 末吉 竹二郎

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