(財)経済産業調査会ロゴ <<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内
リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2009. 12.  RIETI  LETTER
花と水顔画像と経歴




株式会社野沢園 代表取締役社長 田中 一夫

 今年の初夏、長谷川さん(ヤマト株式会社会長)と、京都の街より小一時間程山に登った所の料理屋で、久しぶりに美味しい鮎料理と、漆黒の闇の中を乱舞する多数の蛍達との玄妙な出合いを持つことが出来ました。「まだこんな素晴しい場所があるのだなあ!」という感慨が、昭和二九年の夏の出来事を想い出させてくれました。

 慶應の同窓生のお招きを受け、徳島の小松島という桟橋に着き、鳴門を見学したり眉山の焼餅を食べたりして、ご父君の待つ市内のレストランに行き、昼食に鮎料理を戴き「四国三郎の鮎は如何ですか」と問われました。澄んだ水量に溢れる川を見て来た後で戴く料理は、想像以上の美味で、徳島の全てを食する感じでした。

 栗林公園の規模の大きさも雄大で、展望台から見た瀬戸内海の美しさには驚嘆しました。光る青い海、そこに浮かぶ島々、その背景となる緑なす山々、時を忘れる想いでした。

RIETI LETTER 表紙画像

 また、天狗連の長老の人達の指導を受け、来県しておられた潮田塾長と共に揃の浴衣で慶應連を作り、コップに半分ぐらい酢橘を入れた冷酒を数杯ひっかけた勢いで、大勢の観客の前で踊ったことなどなど。徳島という美しい自然に恵まれた土地柄と共に、人々の楽しげに躍動する素晴しさを、鮎料理と蛍の飛翔で想い出した次第です。

 自然を生かした京都の神社・仏閣、九州には磯庭園、岡山には後楽園など、生活が豊かではないのにも拘らず、昔の人達の造景、修景の見事さは正に文化の粋といえます。

 モンスーン地帯に属する日本は水量に恵まれ、照葉樹林に囲まれた土地でした。水量の多さと流れの早さに、「色々難しいことがありましたが、全て水に流しましょう」などといって、穏やかに問題解決をして来ました。また、山々は広葉樹に豊まれ、秋の紅葉は正に錦にたとえられる美しさです。

 それに引替え、戦後は経済が優先され、ゴミは川に捨てられ放題で、川の水は汚れ、海に流れ込んで赤潮が発生し、土砂の流入で魚貝類が死滅するなどが生じています。昨今、やっと改善に着手された所ではないかと思います。

 山は戦後、有用材としての杉の植林が各所で行われましたが、杉林の樹冠が詰まると日光が地表に届かないため、微生物が育たず、雑草が生えず、雨が降る度に表土が流出し、花が咲かないため、虫や鳥が寄り付かず、また、伐採されないため、幹が太らず徒長するのみで、用材としては役に立たない状態です。山は荒れ、誠に嘆かわしい限りです。

 一輪の花に人々は喜び、虫や鳥は生を育み、そうした木々に恵まれて、保水性の高い状態になれば、常時きれいな水が流れ出て来ます。人々に、その気持が広がれば、川は浄化され、海は豊かになりましょう。四季に恵まれ、亜熱帯から寒帯の変化に富んだ国土に住む我々は、脚下照顧の気持を忘れずに、この素晴しい環境を大切に保全して、春夏秋冬の各季節を楽しみ、礼節の有る社会で人生を楽しむ気持を大切にしたいと思っています。



次号は、文化女子大学理事長 大沼淳氏にお願いします。
リレーエッセイ 「花と水」  (リーチレター 2009年12月号)  株式会社野沢園 代表取締役社長  田中 一夫

 info@chosakai.or.jp
 http://www.chosakai.or.jp/

無断転載を禁じます 財団法人経済産業調査会
Copyright 1998-2006 Reserch Institute of Economy, Trade and Industry.
<<< 前の画面へ戻るお問い合わせサイトマップTOPページ刊行物のご案内