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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2007. 8.  RIETI  LETTER
文化力と軍事力 かけがえなきものを守る技術開発顔画像と経歴




公立はこだて未来大学学長
中島  秀之

 高田屋嘉兵衛と情報処理にどういう関係 があるのか解題はもう少しお待ちいただき たい。

 まずは高田屋嘉兵衛のこと。

 私は四年前に現職に就いたが、それまで 函館はおろか北海道に仕事や親戚の縁はな かった。函館に来て初めて司馬遼太郎の「菜 の花の沖」を読んだ。高田屋嘉兵衛は函館 の町を造ったと言っても良い人物だ。この 本を読むまで、私は嘉兵衛のことを商人だ と思っていた。しかし、読んでから嘉兵衛 観が一変した。

 彼は船乗りだったのである。操船と航法 の名人であった。マネージャではなく技術 者である。

良いリーダーの要件の一つとして、その 分野における卓越した技量が挙げられると 思う。ホンダの本田宗一郎が一流の技術者 だったように、マイクロソフトのビル・ゲー ツがすぐれたプログラマだったように、上 に立つ人はその下で働く人たちの技量を凌 駕していることが大事だと思う。

RIETI LETTER 表紙画像  さて、情報処理の話。

 今、一般にITすなわち情報技術という と、インターネットのことを想起する人が 多いと思う。しかしネットはインフラであ る。その上のサービスを支えている根幹技 術が情報処理である。銀行のオンライン取 引システム、航空会社の座席予約やチェッ クインシステムなどでは膨大な情報が処理 されている。このようなプログラムを完全 無欠に作るのは大変だ。

 アメリカの研究者が「複雑系が盛んに研 究されているが、複雑系というものの振 る舞いについて本当に実感を持っているの は、大きなプログラムのバグ(プログラム の誤り)取り経験のあるプログラマだけで はないだろうか」と言っていた。けだし名 言である。複雑で巨大なシステムを他人に 説明するのは難しい。複雑なままに説明す ると解ってもらえないし、かと言って簡略 化すると、そんなに簡単なら問題ないだろ うと言われてしまう。実際に経験した人で ないと本当のところは理解できないのだと 思っている。これが嘉兵衛につながる。嘉 兵衛が現場で働いており、そしてその道で 優れた能力を持っていたからこそあそこま で大きな仕事ができたのだと思う。

 英国情報処理学会の会長が「ほとんどの トップの意思決定者-政治、社会、企業を 問わず-はITの可能性と限界の両方に関 して驚くほど無知であり、ITへの期待は 多くの場合全く非現実的である」という趣 旨のことを語っていた。このコメントは英 国のみならず、多くの国に当てはまる。無 理はない、今のトップの人たちが学生だっ た頃にプログラミングあるいはプログラム を使うを経験した人は大変少ないであろ う。ぎりぎりの限界を見極める目というの はやはり現場でしか身に付かないように思 う。コンピュータによる情報処理を過信し たり、逆に必要以上に嫌ったりせず、トッ プには是非正しい距離感を持ってもらいた い。もちろんすべての方にプログラム経験 を持っていただくのは不可能である。近く にいるそういう人達の意見を聞いていただ きたいと思う。



次号は、毎日新聞科学環境部記者、元村有希子氏にお願いします。
リレーエッセイ 「高田屋嘉兵衛と情報処理」  (リーチレター 2007年8月号)  公立はこだて未来大学学長  中島  秀之

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