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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2006. 7.  RIETI  LETTER
自転車で見えてきたこと顔画像と経歴




  岩手県知事
  増田  寛也

 もう早いもので知事になって丸一一年が過 ぎた。今、多くの自治体が財政難に見舞われ、 わが岩手県の財政を預かる私の悩みは尽きる ことがないが、それとは別の全く個人的な悩 みは、極端な運動不足である。霞ヶ関で役人 生活を送っていた時分は、通勤時の駅の階段 の昇り降りだけでも相当な運動になってい た。ところが、地方都市の移動手段はどうし ても車利用が中心で、ひどい日には一日二○ ○○歩も歩かない日もある。最初は余り感じ なかったが、この様な生活が三、四年も続く と身体がなまってくるのが自覚されるように なるのである。

 また、このことは大人だけの話ではなく、 子どもの場合にはもっと深刻である。ちなみ に、都会と地方の子どもの体力調査のデータ を比較すると、驚くなかれ地方の子どもの方 が劣っている点が多い。最近、過疎化、少子 化が進み小・中学校の統廃合が行われるが、 その場合には遠距離通学を強いられるので、 スクールバスを用意することが多い。こんな ことも体力低下の一因となっているようであ る。

 そこで私は数年前からサイクリングを始め ることとした。キッカケは、本県で開催され た全国サイクリング大会に夫婦で出場したこ とによる。主催者から、スタートして一キロ 位はぜひ参加者と一緒に走ってくださいと依 頼されたのだが、結局、次の予定に向かうま で、約二○キロほどを一気に走った。

RIETI LETTER 表紙画像  当日、平泉の中尊寺からスタートして北上 川沿いを走ると、気持ちの良いことこの上な い。適度なスピード感と全身に受ける風の爽 快感にすっかり魅せられてしまった。 わが家では、それまで休日にはできるだけ ドライブをして各地を訪ねることにしていた のだが、自転車は少しスピードをゆるめると、 子ども達のボールを追う声、川のせせらぎの 音など、その土地の生活の声が直に聴こえて くる。風の当たりや陽射しの強さなど季節の 変化を五感で受け止めることもできる。何よ りも自らの両足でペダルを漕いでいるという 感触が足の裏にズシズシ伝わってくるのが心 地良い。

 考えてみれば、私は自転車といえばホーム センターで特価で売っている買い物自転車し か知らず、サイクリングといっても何となく 億劫で気が引けていた。しかし、ロードレー ス用ともなるとメカニック部分も極めて精巧 で、上級車は芸術品に近づいてくる。スタン ドもバックミラーもなく、ひたすら軽さと走 りの良さを追求した外国製が多いが、これら もギアやブレーキなどの主要なパーツは日本 のメーカーが提供している。

 全国大会終了後、家内と共にロードレース 用を購入して盛岡市内を中心に楽しんでいた が、最近ではマウンテンバイクも手に入れて林間コースにも挑戦を始めた。何しろ全く思 いのまま、自由気ままに走り廻れるし、ほん の短時間でもそれなりに満足度が高い。盛岡 ほか県内何か所かに立派な自転車専用道路も 整備されているが、それでなくてもダイナミ ックな景観を楽しみながらのコースにも事欠 かない。

 近年の環境意識の高まりの中で、通勤に自 転車を用いる通称ツーキニストが増加してい るとか、東京のオフィス街では書類の急送に 自転車を用いることが多いとも聞く。

 いずれにしても、あまり面倒な理屈をつけ ずとも、日頃の運動不足の解消と岩手の素晴 らしい自然を満喫するために、わが家のサク リング熱は今後も続くことは確かである。



次号は尊敬する首都大学東京学長、西澤潤一先生にお願いします。
リレーエッセイ 「自転車で見えてきたこと」  (リーチレター 2006年7月号)  岩手県知事  増田  寛也

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